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トパーズ
第8章 それぞれの事情
山田くんの電話で、往診に来てくださったお父様は、
物静かな処は山田くんに似ていたけど、
雅なお雛様のような顔立ちで全然似てなかった。

母の寝室で横になってるミラノは、
かなり苦しそうで見ているのも辛くなってしまう。


診察を終えた山田くんのお父様にソファに座っていただいて、
お茶をお出しすると、

「ん?
美味しいお茶ですね?」とニッコリされた。


「A型インフルエンザですね。
薬はこれで…」と淡々と説明する。


一緒に来た女性が、
薬を用意して袋に入れてミラノのお母様に渡す。


「一緒に居た人も感染るかもしれないな。
岳人はワクチンしてるけど、
皆さんは?」


「受けてます」と、黒田先生と私は答える。


「まあ、ワクチンしてても感染しないわけではないけど、
重篤化しないと思うから…」と言われた。


「さて、ではこれで。
岳人はどうする?」


「ここに残るから…」


「そうか。じゃあ」


「あの…診察料は?」とミラノのお母様が慌てて言うと、

「まあ、良いですよ。
いつも岳人と仲良くしてくださってありがとうございます」と言って、
そのまま立ち上がってしまうので、
私も立ち上がって玄関までお見送りする。


靴べらをお渡しすると、
「ありがとう」と小さい声で言って、

「岳人が明るくなってきたのは、
君のおかげかな?」と笑う。


「えっ?」


「楽しそうにギターを弾いているんですよ。
まあ、音しか聴いてないから、
顔は見てないけどね」と言った。


一緒に居た能面ような顔の女性は、
冷たい目で私のことを一瞥すると、
何も言わずに先にドアの外に出てしまった。


山田くんのお父様は、
小さく溜息をついて、

「岳人と仲良くしてやってください」と言って、
少し頭を下げて出て行った。
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