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世界で一番身近な女
第2章 姉の葛藤

「でさ…そいつが言うにはさ…」

居酒屋ではヨリを戻そうと必死に正樹がジョークの数々をマシンガンのように紗希に浴びせかけていたけれど、心の片隅に弟の大介との約束を反古にしてしまった後ろめたさがあるので正樹の渾身のジョークにも笑えずにいた。

「もしかして…俺とこうしているの退屈?」

自分のペースに乗ってこない紗希に
正樹の表情が曇った。

「えっ?ううん、そんなことないわ
でも、やっぱり私、帰ろうかしら…」

「そんなに弟くんの事が心配?
男の子だろ?羽根を伸ばせてせいせいしていると思うぜ」

「そうなんだろうけど…
私、あの子とちょっとした約束をしていたから…」

「あんまり構いすぎるとシスコンになっちまうぞ
彼女なんかいらない、姉貴がいればそれでいいんだってなっても困るだろ?」

シスコンかぁ…
そうかもしれない…
でも、その要因を作ってしまったのは紛れもなく自分なんだから自己嫌悪になってしまう。

「いっそのこと弟くんに女でも紹介してあげなよ」

「ダメよ!!あの子に彼女なんて!!」

珍しく紗希が声を荒げたので正樹がたじろいだ。

「ごめん、ごめん、冗談だよ」

ご両親が留守ということで
弟の面倒を見なければいけないということで
もしかしたら母性本能に目覚めたのかな?と正樹は危惧した。

「羨ましいよ、紗希にそんなに大事に思ってもらえてさ…その何パーセントでもいいから俺に愛情を注いでくれよ」

「なぁに?ヤキモチ?
貴方らしくないわね
私が愛情を注がなくても他にも女がいるくせに」

「それを言うなら君だってそうだろ?
何股だい?二股ぐらいじゃないんだろ?
俺はその頂点にいるのかな?
言っておくけど、お前は俺の頂点だからな
他の女とデートするのも、お前の良さを再認識するためなんだから」

「良く言うわよ
もうお前を抱けないなんて言ったのはどこの誰でしたっけ?」

「悪い!ほんと、あの日の俺はどうかしてたんだよ。もう、お前なしの人生なんて考えられないよ」

わかってるだろ?
正樹は紗希の肩を抱いて周りに他の客がいるにも関わらずキスをした。

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