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バツイチと言わせない
第3章 康介と希美子
朝から夏の太陽が照りつける。

毎年夏休みは合宿で水泳三昧だったが
今年はパスした。

いや、それどころか退部願いを提出しようと
康介は 机に向かって便せんにペンを走らせようとしていた。

母親は部活に行こうとしない康介を心配するどころかパートタイマーの出勤時間が迫っていることでバタバタしていた。

「じやあ母さん行ってくるわね」と言ったのと玄関のチャイムが鳴ったのと同時だった。

あら、誰かしらと母がインターホンのボタンを押すと「朝早くからすいません、隣の赤坂です」と
涼やかな声がスピーカーから流れた。

母が出かける準備をしてそのまま玄関でなにやら希美子と会話していた。

数分後「康介、ちょっといらっしゃい」と階下から呼ばれた。

なんだよもう!と思いながら
渋い表情で降りていくと
昨日とはまた違ったパステルカラーのワンピースに身を包んだ希美子がいた。

「赤坂さん、あんたに引っ越しの荷解きの手伝いをしてほしいそうよ」

「すいません、昨夜いつでも声をかけていいとおっしゃってくださったので図々しくお願いに参りました」

別段やることもなく暇だったので
身支度が整ったら伺いますと答えた。

自分の部屋に戻り、
きっと力仕事をさせられるのだろうと
短パンにTシャツといった軽装で
お隣さんのドアをノックした。

「無理言ってごめんなさいね」

散らかっているけど適当に座ってちょだいという言葉に甘えてソファの片隅に腰を下ろした。

「飲み物、何がいい?」

そう聞かれても水泳に明け暮れていたので
炭酸は飲んだことがないので
「お水でいいです」と答えた。

麦茶でいいかしら?

コップ二つを手にして
希美子は康介の隣に腰を下ろした。

鼻腔を爽やかな香りが突き抜けた。
なんという香水だろう…
すごくいい香りで大人の女性という感じがした。

「で、何を運べばいいんですか?」
麦茶を一気に飲み干し、
さっさと片付けて帰ろうと思った。
そうでないと希美子の色気に
ノックダウンしそうだった。

「そんなに重くはないんだけどね。
いえ、むしろ軽いんだけどね。
何度も階段を昇り降りするのっていやじゃない?
だから康介君にお願いしたの」

まあ、自由にこき使っていいと言ったのは母さんだし、 康介自身も時間があるのでそういう事はお安いご用だった。
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