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蒼い月光~くの一物語~
第11章 三つ巴の交わり
空耳であろうか…
そう自分に言い聞かし、
再び桶に冷めた湯を汲んだ。
「驚かせてすまぬ、
訳あって姿を見せぬことができぬ」
再び低い女の声をしっかりと聞いた。
それはまるで自分の背後にぴったりと寄り添い、 肩を抱きながら語りかけているようだった。
素早く湯船に飛び込み、身を隠した。
「誰?誰なのです!」
「私に姿、形はございませぬ。
八重様の心に直に語りかけておりまする…」
「もののけの類(たぐい)か!」
「そう思われても仕方ございませぬ。
例えるのなら…そう、千代さまの守護霊」
「なんと!千代さまの…」
「千代さまは、
そなたを心底お慕いしておりまする。
私も千代さまをお護りいたしますが、
できればそなたにも
力を貸していただきとうございます」
打ち首を助けていただいた時から、
この身命は千代に捧げると誓ったので
迷いなく大きく首を縦に振った。
「すまぬ…
近々のうちに、千代さまが
不可思議な行動を取られるとは思うが
その時は死を覚悟して
千代さまと行動を共にしてくれると
約束してくださいますか?」
不可思議な行動?
いったい、何をされるというのか…
だが何があっても千代を守るのが
自分の出世の本懐であるべきように感じた。
「ご安心下さいませ、
この八重、命にかけて千代さまに
お仕えさせていただきます」
「かたじけない…そなたの亭主も
霊山で誇りに思われるであろう」
しばらくすると、声は聞こえなくなった。
あれは、夢現(ゆめうつつ)の幻であったのか…
八重は体が震えだした。
それは冷めた湯が八重の体を冷やしたための
寒さからではなかった。