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蒼い月光~くの一物語~
第12章 朱里の誠の敵討ち
剣山は死者を丁重に弔った。
若く、血気盛んな武将ではあったが、
それとは逆に先代の殿様の血を受け継ぐ
情の深い熱き漢(おとこ)でもあった。
なかでも、己に挑みかかってきた、
うら若き乙女の「くの一」には情を抱き、
骸を引き取りにきたウズメと疾風に
娘の最期を語って聞かせ、
アッパレな最期であったと讃えた。
「朱里は見事に散ったのね‥‥」
朱里が納められた棺の大八車を押しながら
ウズメは呟いた。
「あのような立派な武将に敗れたのだから、
朱里も本望であろう‥‥」
朱里の骸は銀箔の棺に納められた。
ウズメと疾風は少しでも早く村に帰り着き、
朱里の亡骸を思い出の残る
我が家で寝かせてあげようと、
少し険しいが近道となる喧騒峠(けんそうとうげ)の道を選んだ。
だが、その親心が災いした。
その峠こそが
貞虎が朱里に話していた
山賊が住み着いていた峠だったのだった。
キラキラと輝く銀箔の棺は、
山賊の目には
お宝の詰め込まれた長持ちとして映った。
山賊は、気配を消して
少しずつウズメたちに近づいた。
若い頃の二人ならば、
いくら気配を消そうが、
わずかな空気の流れと血生臭い匂いを
嗅ぎ取ったに違いなかったが、
現役を退いて十数年の二人の嗅覚は鈍っていた。