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蒼い春
第7章 ほんとうの春

「遅いなあ…もうそろそろの筈なんだが…」

幸久は落ち着かないのか
何度も腕時計に目を落とした。

そのときだった教室のドアを
コンコンとノックする音がした。

「どうやら来られたみたいだ。どうぞ」

ガラッと扉を開いて教室に入ってきたのは
弓子先生だった。

「弓子先生?…」

おどろく奈央とは裏腹に
幸久は落ち着いた口調で

「待っていたよ。来られましたか?」と
弓子先生に問いかけた。

「ええ、約束どおりお連れしました」と
弓子が答えた。


「どうぞ、こちらです」

弓子先生に促されて入ってきたのは、
なんと奈央の母だった。


母は奈央の顔を見るなり号泣し、
ハンカチを顔に押し当てた。


『え?え?どういうこと?』


戸惑っていると幸久先生が話しかけてきた。

「親子関係がうまくいってない生徒というのは、
奈央ちゃん、君のことだよ」

「このままだといけないと主人と話していたの」

弓子先生が母の肩を抱き、
奈央の近くへ連れてきた。


「ごめんなさい、ごめんなさい…」

蚊の鳴くような小さな声で
母はひたすら謝っていた…


母は…こんなに小さかっただろうか…

母は…こんなに痩せていただろうか…

弓子は奈央を引き取った後も
母とちゃんと連絡を取っていた。

高校の入学式、卒業式…

短大の入学式、卒業式…

成人式の晴れ姿…


母は遠く離れた場所から
奈央を見守っていたのだと弓子が教えてくれた。

涙が目からあふれ出た。


「お母さん!お母さん!!…」

気づけば奈央は母を抱きしめ泣いていた。






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