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蒼い春
第5章 保健室の引きこもり生徒

翌朝 弓子はすこぶる機嫌がよく、
幸久はすこぶる機嫌が悪かった。


困ったことに、同じ職場であるがゆえに
学校に到着するまで、
不機嫌な幸久と
肩を並べて歩かねばならなかった。

出勤の途中で
幸久がへの字口にした膨れっ面から
小さな声で奈央に尋ねた。

「あの男でいいのか?…」

あまりの小さな声で
よく聞き取れなかった奈央は
「え?」と言いながら小首をかしげた。

「あの、新任の体育の先生でいいのかい?」

今度は、はっきりと聞き取れる声量で
奈央に問いかけた。



昨夜のこと…バレちゃってる?

颯太の顔、身体を思い出し、
顔から火が出るほど赤面した。

「奈央ちゃんが、あいつでいいと思うのなら
私は反対はしない。
だが将来なんて誰にもわからないんだから
避妊だけはきっちりとやりなさい。いいね?」

幸久の言葉は
父親からのメッセージのような気がした。

奈央は神妙な面持ちで
「はい」そう短く答えた。


「実はね、
ちょっとだけ父親気分に浸りたかったんだよ、
私たちは血は繋がってないけれど
奈央ちゃんを実の娘のように思っているんだ。
これからも何かあったら相談してほしいな。
私に打ち明けにくいことは
弓子に話してくれてもいい。
私たちは奈央ちゃんに
幸せになってもらいたいんだよ」


そう言ってウィンクすると
照れくさそうに笑った。

「ありがとうございます…」

知らず知らずの内に
奈央の頬を一筋の涙が流れた。




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