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黒い瞳
第1章 プロローグ
昨夜からパラパラと降っていた雨が
日付けが変わるころに、
どうやら本降りになってきたようだ。
暗く静まり返った室内に激しい雨音がこだまする。
『ああ、いやになっちゃう。
明日はお洗濯できないなあ』
いつもなら、そんなことを考えていただろう。
しかし、今はもうそんなことを気に病む必要はないのだ。
遠くで雷鳴が轟く。
まるで女の心に楔を打つかのように・・・
女は暗い室内の天井を見つめながら考えていた。
『どうしてこうなっちゃたんだろう』
懺悔の思いが胸に去来する。
女は思考を停止させた。
今は何も考えられない。
いや、考えたくもないというのが本音であった。
やがて女の心は空白で満たされてゆく。
ついこの間まで、幸せに満ちた日々に心はタイムバックしてゆく。
一瞬、室内が昼間のように明るくなる。
しばし遅れて空気を裂くような激しい雷鳴が轟く。
まるで女の心を引き裂くかのように・・・
雷鳴に共鳴するかのごとく、
女の思考が再び活動しはじめる。
だがそれは現実逃避したかのように、
過去の幸せな日々の思考であった。
『こんな激しい雷雨だもの、
きっと娘の由紀子は怯えているはずだわ』
女の脳裏に乳飲み子の鳴き声が響き渡る。
『由紀子のそばに行ってあげなきゃ』
そう思うのだが、
身体がまるで十字架に磔にされたように動かない。
『どうして?』
頭は覚醒しているようでも、
身体はまだ眠っているのだろうか?
まるで金縛りになったかのように
体の自由がきかない。