この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
黒い瞳
第5章 淳子~15歳~
月日は流れ、淳子は綺麗な娘になった。
淳子の成熟が増すにつれ、
母の老いが目立ち始めた。
今や春を売る稼業も閑古鳥が鳴いていた。
「淳子、中学校を卒業したらどうするんだい?」
ある日、母は淳子に問いかけた。
級友たちは、みんな進学するという。
だが、淳子は勉強ができる子ではなかったし、
母に負担をかけたくなかったので
進学する気など毛頭なかった。
少しの金額でも稼いで、苦労してきた母に楽をさせてあげたいと考えていた。
働きたいと母に告げると、
「働く?働くといっても今のご時勢じゃあ、
中卒の女を雇ってくれるとこなどそうそうないわよ」
お金の心配などしなくていいのだから、
進学を考えてみてはどうかと勧められたが、
淳子の思いは変わらなかった。
「常用雇用でなくてもいいの。
パートでもなんでもいい。私、働く」
淳子の意思は固かった。
中学を卒業すると、淳子は近所にあるスーパーのレジ打ちのパートを始めた。
時給は、ほんの小遣い程度であったが、
初給料の袋を母に手渡すと、
ありがとう、ありがとうと何度も喜んでくれた。
その頃から、母は目に見えて痩せてきた。
どこか、体の具合が悪いのなら、
お医者さまに診てもらったほうがいいと何度も勧めたが、
少し疲れているだけだと首を縦に振ろうとはしなかった。