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いろはにほへと~色は匂えど~
第1章 浪人 策ノ進
庄屋が貸してくれた土地は
想像以上の荒れ地だった。
石ころだらけで岩もあり、
打ちつけた鍬(くわ)が折れてしまうかとさえ思えた。
数日間頑張ってみても畑にはほど遠かった。
「うち、手伝うたろか?」
やかんに茶を入れて
差し入れに来てくれた庄屋の娘が
助太刀を申し出た。
「いらん!おなごに手伝ってもらったと知れたら
とんだ赤っ恥だ」
娘の言葉にイラっとした。
「そんなん言うたかて、
このままやったら何年たっても畑にならへんよ?」
もっともな意見だった。
策ノ進自身、心が折れかかっていた。
「侍さんには畑仕事が向いてへんってことやわ
なあ、うち、ええ事を思いついてん」
お吉が目を輝かせて一案を投じた。
「あんた、寺子屋の師範してみいへん?」
「寺子屋の?」
「そうや、ほら、
そこにええ感じのお堂があるやん」
少女の名はお吉。
お吉は前々から
読み書きそろばんを習いたいと思っていたと
告げた。
その顔は、おぼこい(幼い)少女ではなく、
立派に女の顔をしていた。
お吉の案を庄屋に提案したところ、
たいそう歓迎された。
「ご覧のようにこの地域は
田畑によい土地とは言えず、
子供を奉公に出すにも
大坂は商人の町ですよって
読み書きそろばんができる奉公人は
たいそう重宝される」
我が娘の妙案とも知らず
庄屋は策ノ進の申し出を快く承諾した。