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いろはにほへと~色は匂えど~
第7章 婚礼
策ノ進との祝言が明日に迫っていた。
祝言の席に飾る花を摘みに
お民は山を歩いていた。
峠の端に早咲きの桜があったのを思い出して
祝宴を彩りたいと思ったからだ。
険しい道のりであったが、
お民の足取りは軽かった。
明日になれば
晴れて策ノ進と夫婦(めおと)になれる…
そう思うと心が弾んだ。
桜の木に辿り着き、
お民は桜の木に向かって合掌した。
『せっかく咲かせた花やけど、
うちらの祝言のために少しだけ分けて下さい』
そうしてから女の非力でも
折れそうな小枝を見繕っていくつか手折った。
桜に没頭していると、
背後から「お民ちゃん…」と呼びかけられた。
誰かと振り向くとそこに与作が立っていた。
「どうしたん?こんなところに来るなんて」
男の与作がわざわざ花見に
興じる訳でもないだろうから
お民は素直に与作がここへ来た理由を聞いた。
「お民ちゃん…
ほんまに先生様と夫婦(めおと)になるんか?」
与作は畑小屋の件から
仄かにお民に恋心を抱いていたのだった。
「うん。先生様にはお吉ちゃんがいたよって、
うちには出る幕はあらへんと思ってたけど…
こんなことを言ったら罰が当たるかもしれんけど
お吉ちゃんがお城に召しかかえられて
ほんまに良かったわ。
おかげでうちにこうして
おはちが回ってきたんやから」
嬉しそうに話すお民に対して
与作は浮かぬ表情をした。