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いろはにほへと~色は匂えど~
第8章 武道大会
お民を失ってからの策ノ進の落胆は
ひどいものであった。
寺子屋を開講していても
子供達に手本の文字をなぞらえさせるだけで
本人は一日中ぼーっとしていた。
子供達もそんな策ノ進を気づかい
お民と与作の事は
あえて口に出すことはなかった。
そんな折、
庄屋が一枚の御触書を携えて
寺子屋へやって来た。
「落ち込む気持ちもわかるが、
いつまでもしょげていたって
お民が帰ってくるわけでもないのだよ…」
たまには体を動かしたらどうだと
御触書を策ノ進の前に滑らせた。
策ノ進はそれを手にすることもなく、
だだほんやりとその御触書を眺めていた。
「毎年恒例の事なんじゃが…
この藩では武道大会が開かれる。
村ごとに予備選が行われて
そこで頂点を極めたものだけが
城に招かれて城内の藩士達と試合が出来る…
まあ、うちの村からは
まだ一人も城に招かれた者はおらんがの…
どうじゃ、決戦まで登り詰めて城に行ってみては…
上手くすれば城内のお吉の顔を拝めるかもしれんぞ」
庄屋が発した『お吉』という名に
策ノ進はピクリと反応した。