この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
いろはにほへと~色は匂えど~
第8章 武道大会
お吉を見つけられぬまま
試合開始の触れ太鼓が打ち鳴らされた。
策ノ進の元に
『当番』と書かれた襷(たすき)を付けた
下級武士が
「こちらへ」と控え室に案内してくれた。
控え室と言っても、
馬小屋の隣の馬番の休憩室で
馬の臭いが立ちこめていた。
「こちらが本日の取り組み表にござる」
あまりの臭さに当番役は顔をしかめながら
櫓表(トーナメント表)を差し出した。
その表を見る限り
五回勝ち抜けば頂点に立つことになる。
「それから…」
これは殿からの書状でござる。
と、懐から手紙を差し出した。
内容は大会に勝ち抜いて頂点に立てば
只今空席となっている武芸道場の師範に推すと書いてあった。
ここへ来るまでに内容を先に盗み読みでもしたのか
「あんた、勝ち抜いたら目出度く武士に返り咲くことが出来るかもな」と言った。
だが、言葉とは裏腹に、
その目は『お前なんぞは一回戦で負けるわい』と言っていた。
「それから…」と当番役は言葉を続け、
何かと準備が必要でござろう。
世話役の腰元を遣わすので
何なりと申しつけよと言って足早に立ち去った。
『このような見窄らしい浪人の世話をさせられる腰元もさぞイヤがるであろうな…』
しばらく待っておると
「お世話をさせていただきます」と女がやって来た。