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蜜と獄 〜甘く壊して〜
第1章 【業界未経験の需要】





「お店では今まで通り精進致します、クビだと仰られればそれに従います、上が要らないと言うなら受け止めるしかありませんから」




「お前さっきから何言ってんだよ」




「それ以上に…神楽坂紗衣という名前も捨てれないという事です……書道家としてのキャリアは私にとってなくてはならないものですので、失う選択肢はありません」




「ふん、例え金を積んでも微動だにしない顔だな」




私は、メディアには一切顔を出しては居ないが、業界では名高い師範の父を持つ書道家だ。
父はその中でも有名で書道団体をも運営していた。
3年前に脳梗塞で亡くなってしまったけれど。




もしまだ父が生きていたなら、今の私を見て何を思うだろうか。
だらしのない底辺で生きる人間だと、ゴミを見るような目で憐れむかも知れない。




母とは血が繋がっていない為に昔から折が合わず、父が他界してからは一切連絡を取っていない。
多額の遺産を手にし、豪遊生活を満喫してるとか何とか。




私は父の不倫相手の子供だったらしい。
15の時に知った。
だからどうりでこんなに浮く訳だ。
家元を離れ独立に成功した私を良くは思っていない。
未だに神楽坂紗衣として書道の道に居るのだから。




遺産分与も遺言通りに分配されたが揉めに揉めてだ。




そのせいでバラバラになってしまったけれど、私は父の残した道に賭けてみようと思ったの。
敷いたレール通りには進めないかも知れないけど、神楽坂と言う名に恥じぬよう書道家としての私が存在し続けなければならない気がしていた。




こちらもちゃんと顔出しNGとしているので私だとバレることはない。
展示会や式典などもメディアは出禁にしているし取材も一切受け付けない。
SNSには写真等全て排除してある。




題字の文字制作や、デザイン制作、お店の看板文字や御品書き等、数々のオファーを受けている。
あまり得意ではないが書道パフォーマンスも式典では執り行う事も。




街を歩けば至るところに父が書いた文字が存在している。
それに負けないよう自分の文字も散りばめたいと思うようになったのはごく最近の事だ。
そこに辿り着くまでには苦しい地獄の連鎖が私を雁字搦めにしていた。
















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