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Kiss Again and Again
第11章  兄 妹

 手を引かれたまま 裏口から お店の厨房に入った。

 厨房には もう誰もいなくて ひんやりしている。

 「つい・・・ やっちゃった・・・」

 頭の白い三角巾のようなものを脱いで うつむいたまま 樹さんが
 「あゆちゃん・・・ ごめん・・・ こわかったよね」

 「あ・・・ こわかった・・・というか びっくりしてしまって」
 まだ 心臓は ばくばくしている。

 「丁度 あゆちゃんのこと考えていたら 向かい側にいるのが見えて・・・ 何も考えず あんなこと・・・ して・・・ ごめんね」

 白いもので覆われていたせいで 髪の毛が ぺとりと張り付いたようになっている。 額を抱え込むように 5本の美しい指が広がっているせいで 樹さんの表情は よくわからない。 反省しているみたい。

 「あんな 危ないことしちゃって・・・」
 確かに 大の大人が するようなことじゃあない。

 張り付いた髪の毛をくしゃくしゃにしながら
 「じゅんに・・・ 怒られる・・・ 絶対 怒られる・・・」

 純子ちゃんに怒られることを 気に病んでいるの?
 こんな大きな身体して?
 あんなに堂々と 道路を横切った人が?

 思わず 笑ってしまった。 一度笑い出すと 止まらなくなった。

 「あゆちゃん? 笑っているの?」
 「だって こんな大きな身体して・・・ じゅんが 怒ること 心配して・・・ じゅんが こわいの?」

 「あゆちゃんが笑うの 久しぶりにみた」

 あ・・・
 海のことがあってから 笑っていない。 もう 随分 笑っていない。

 「笑ったりして ごめんなさい。 でも 完全無欠の樹さんが・・・ じゅんがこわいとか・・・」


 柳は しなやかに 強い風にも折れたりしない。 ただ 揺れるだけ。


 笑いは 笑いを生んで いつまでも笑った。
 樹さんも 笑っていた。 いつもの華やかな笑い方ではなく 楽しいことを温めているような静かな笑い方で。

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