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女優
第10章 若女将登場&筆下ろし
夕飯は期待していたが思った以上に質素であった。
ガッカリした思いが顔に出たのか
「ごめんなさいね。
こんな山奥だから
たいしたおもてなしもできなくて…」と
お酌をしてくれながら若女将が
申し訳なさそうに言った。
「いえ…素朴だけどいい味付けです」
「嬉しい言葉をありがとう…
大浴場での裏メニュー見たでしょう?
あんなこともしなければ
リピーターさんになってもらえなくて…」
こんなことばかりしていたら
婚期がどんどん逃げていくわね
若女将の顔はなんだか寂しそうだった。
旦那を早くに亡くした女将が
温泉旅館を切り盛りしていたが、
その女将も昨年、脳梗塞で倒れてしまった。
女将見習いとして働いていた若女将に
旅館経営という重責が襲い掛かった。
経営のノウハウを
完全に教え込まれていなかったものだから
従業員からは不満が堰を切るように湧き起こった。
これではいけないと
近代化のシステムにチェンジしようとしたが、
かえってそれが昔から勤めていた従業員に
受け入れられなかった。
一人、二人と従業員が去りはじめた。
「花板さんも辞めてしまって、
今じゃこんな郷土料理みたいなメニューしか
用意できなくて…
何度、旅館を廃業しようと思ったことか…
でも女将である母が退院してきた時に
ここが無くなっているという状態だけは
避けたくて」
「まあ…そうだったんですか…
でも、うちの会社の湯けむりレポートって
評判いいから
視聴された方がわんさかやってきますよ」
売れるかどうかもわからない企画だったが
若女将に笑顔になってもらいたくて
愛子はそう言って慰めた。
「ふぅ~…ちょっと酔っちゃったみたいだから
夜風に当たってきますね」
重苦しい空気に耐えれなくて
愛子はそう言って誤魔化し、席を離れた。