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抱き屋~禁断人妻と恋人会瀬
第10章 花守乙帆 39歳⑧愛され拘束妻
「佐伯さん…」

 と、乙帆は言うと、いじらしく長い睫毛を伏せて唇を突き出してきた。

 キスがしたいのだ。

 佐伯はすぐにその顔を抱き寄せて、ぷっくりとした唇に触れた。唾液に濡れた舌を味わい、女の香りに包まれ、乙帆の亡夫が味わいたがっていたものを味わった。それはこれまでにない長く丁寧なディープキスだった。

 佐伯が唇を奪うのと違い、乙帆が下から積極的に吸い返し、やわやわとした唇肉や舌を絡めてくる。獣の母親が、仔を慈しむような舐め回すキスだ。

 佐伯はふと、あの病床記に彼女の夫がよくせがんで、人目のない時に乙帆からキスをしてもらったと書いていたことを思い出した。

 香しい乙帆の優しいキス。もはや起き上がって抱き締めることも出来なかった亡夫にとって、それは唯一の日々の慰めのようなものだったに違いない。

 他人や他の家族には決して、出来ない。妻の乙帆にしか与えることが出来ない。人は最期の最期まで、愛する人の温もりを求めるのだ。

「お願いがあります…」

 そっ、と唇を離すと、乙帆は妻が夫に求めるように言った。

「あの人とし遺したこと、今夜はしてみたいんです…」
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