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抱き屋~禁断人妻と恋人会瀬
第3章 花守乙帆 39歳①特濃フェロモン妻
 確か『体衣移香(たいいいこう)』と言ったと思う。古代中国では、フレグランスも美女の条件であったと言う。

 世界三大美人と言われる唐の楊貴妃も、えもいわれぬ芳香の持ち主で、彼女の場合は本人だけでなく、脱ぎ捨てた衣類にまで、そのかぐわしい香りが移っていたそうだ。

(着ていた衣にすら、体の香りが移るフェロモンの持ち主…)

 もしかすると、それは乙帆のような女性であったのではないだろうか。

 それにしても、和服姿で来てもらったのは正解だった。和服は乙帆の香りが染み込みやすいのである。

 『体衣移香』の伝説通り小袖から帯留め、白足袋まで、乙帆が身につけたものは何であれ、その悩ましい体臭が、しっとりと染み込んでいた。

「脱いだものを、いちいち嗅がないで下さい…」

 裸になるよりもむしろ、乙帆はそのことを恥じらった。

 乙帆の体臭は、男を狂わせる香りなのだ。嗅いでいるだけで、甘酸っぱく胸が締め付けられて、腰から下がむずむずしてくる。ただ甘ったるいだけではない。

 なんと形容したらいいのか、咲き頃の花びらを甕にぎゅうぎゅうに詰めて、それを香りづけに蜂蜜酒を造ったような、高貴にして風雅な香りなのである。もちろん男が反応するのには、それだけでは足りない。熟れきった乙帆自身の皮脂や髪の油分、体液の香りが混じっているのだ。

 そしてもちろん、その極上の女臭を楽しむのには当然ながら、汗ばんだ素肌や粘膜から、直接嗅ぐのがベストなのである。

(もしかして、これはとんでもない贅沢なのでは…?)

 得難い体験への期待に、佐伯は胸を高鳴らせた。
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