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女流作家~君を愛すればこそ~
第5章 取材旅行へ
そんな折、次回作の構想を練るために
出版社からイタリアのロケハンの話が出た。
新婚旅行さえまだだったので、
桐子は自腹で招くから
晃に一緒に行こうと薦めたが
「だめだめ、桐子先生は仕事で行くんだから
ちゃんと現地取材とかしなくっちゃ
お土産を楽しみにしているね」と断った。
男の担当者が同行するのなら
心配で同伴しただろうが
今回の担当は城島節子という女性だったのが
安心したというのも
同行を拒んだ理由と思われたが違っていた。
「同行者は城島さんだろ?
俺、あの人が苦手なんだよ…
俺が新人の頃に怒られて以来、
彼女とはウマが合わないんだ」
なるほど、そう言うことかと桐子は納得した。
でも桐子が留守の間は
夫の晃にもゆっくりしてもらおうと
家事のことは母の芳枝に頼むことにした。
結局、菱沼は桐子が旅立つ日も
空港に見送りに来なかった。
よほど城島女史に会うのが嫌だったのだろう。
菱沼は桐子の飛行機が離陸する時間に
自宅のベランダから
成田の方を向いて手を振っていた。
「そんなに後ろ髪を引かれるのなら、
ちゃんと見送りにいけばいいのに」と
朝から菱沼の世話をするために
家にやって来た桐子の母が
クスクスと笑った。