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夢の異邦人(エトランゼ)
第9章 この世界の義孝
義孝は席に戻るとスマホを取り出して留美子に
『今夜はキャンセルにさせてくれ』と短い文面のメールを送信した。
離れた席の留美子はメールに気づくと
スマホ画面をチラッと眺めて
拗ねたような視線を義孝に投げて寄越した。
さて、次は妻の有里だ…
席を外して廊下に出ると
有里のスマホに電話をかけた。
ちょうどその頃、
有里は翔に言い寄られていた。
「なあ、俺に抱かれろよ
そうすれば快感が記憶を
呼び戻してくれるかもしれないじゃん」
そう言って翔は有里を抱き締めてきた。
この男と、この世界の私はデキてるだなんて…
はっきり言って翔は
有里のタイプの男ではなかった。
私の理想の男は…
そう、やっぱり大牟田さんだわ!
この窮地に颯爽と騎士(ナイト)のように
私を助けにきてくれないかしら…
ドラマではよくあるパターンも
現実にはそうも思いどおりにいかない。
そのとき、尻ポケットに入れていたスマホが鳴り出した。
「ほら、電話だから応答させてよ」
首筋にキスの雨を降らせる翔を無視して
有里は電話に出た。
『有里か?俺だ』
有里は慌ててスマホを胸に押し当てて
主人からだわと翔に告げた。
『悪いが、今夜は部下を連れて帰るから
食事の用意を頼む
定時に帰る予定だからそのつもりでね』
「わかりました」
ほら、主人が帰ってくるのよ。
悪いけどあなたも帰って頂戴な。
そう言われて翔は渋々と帰っていった。
思いもかけずに夫が騎士(ナイト)になってくれたわと有里は安堵した。