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夢の異邦人(エトランゼ)
第12章 旅の終わり
大きなトランクに、できる限りの身の回りの服や
メイク道具を詰めてマンションの近くで待機している大牟田の車に駆け寄った。
「別居を旦那は許してくれたかい?」
トランクを有里から受け取り、
車に積み込みながら大牟田は有里に問いかけた。
「家族離散よ」
「なんだい、それ?」
大牟田は彼女なりのジョークかと思ったが
真顔で言うものだから深刻な問題になったのだなと解釈した。
車を発進させようかという時に
娘の有紀も大きなバッグを背負って
マンションから飛び出してきた。
「大牟田さん、ちょっと待って」
そう言われて大牟田は急ブレーキを踏んだ。
見知らぬ車が急停止したので
有紀は怪訝そうに車内を見て、
母の姿を認めると大層驚いた。
「ママ?」
そして運転席の男に反射的にペコリとお辞儀をした。
「あなた、本当に出ていくの?」
助手席のウィンドウを下げて、
有里は有紀の本心を確かめた。
「うん、こんな状況じゃなければ
ちゃんとパパとママに紹介したかったけど…
私、高校を卒業したら結婚するつもりよ」
「わかったわ、じゃあ、無理しないように頑張りなさい、ママは応援するからね」
「よかったら乗っていくかい?
その彼氏とやらの家まで送るよ」
母と娘の関係はそんなに悪くはないんだなと感じた大牟田は車に乗ることを勧めた。
「ありがとうございます
でも、送ってもらったら愛の棲みかがバレちゃうからいいわ」
有紀は照れ臭そうに笑って
有里と大牟田の二人にバイバイと手を振った。