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おうち時間
第2章 床の上で
その日の勉強のノルマを終え、一区切りついた紗希はヘッドフォンを外して一息ついた。
ヘッドフォンからは何の曲も流れていない。
勉強中、最も集中できるのは無音だ。
開け放した窓やかっちり閉めたドアの隙間から漏れてくるちょっとした雑音をシャットアウトするために、なんとなく付けていたのが、もう習慣になってしまった。

「ん〜〜っ、ちょっと休憩ー…」

ひとりごちて、リビングへ向かう。
母親は出かけているようで、家の中はしんとしていた。
コーヒーを淹れて、自室へと戻る。
開け放した窓からは心地よい初夏の風が吹き、カーテンを揺らす。
ベランダへ出れば、真っ青な空とコントラストの強い白い雲が眩しい。

『っん…あ、た、っちゃ…ぅん……っ』

小さく、けれども確かに、艶のかかった女性の喘ぎ声が聞こえた。
どうやら右隣の部屋からのようだ。
最近まで、空室だったはずだが、新しい人が引っ越して来たらしい。
そういえば、今朝引っ越し業者のトラックが止まっている、と母が言っていた気もする。

『ひゃ…あ……ん…ぅ……』

艶かしい声が、紗希の耳へ届く。

(これって……)

紗希はそっとベランダへ出ると、隔板に耳をくっつけた。
わずかに聞こえる男性の低い声と、女性の艶めいた声。
紗希の心臓がドキドキと高鳴り、身体が熱くなった。
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