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シャイニーストッキング
第2章 黒いストッキングの女1
 50 離婚の想い

 「じゃあまた明日、このタクシーチケット使いなさい」
 「ありがとう、また明日、楽しかった…」
 
 夕暮れ時の19時近くに私達はタクシーを拾い、別々に帰途する。

 ゆかりは羽田近くのマンションに住み、私は三軒茶屋辺りに住んでいた。
 31歳で26歳の元妻と恋愛結婚をし、33歳で祖師ヶ谷辺りに家を買い、そして37歳で離婚した、子供はいない。
 結果的には元妻の浮気が原因なのだが、一方的には彼女を責められないと今でも思っている。
 当時の私は営業職に付いていた、そしてその頃は若さもあり特に出世欲が強かった。      
 その為にも精力的に仕事三昧の毎日を過ごし、帰宅は毎日深夜遅く、休みは接待ゴルフ等で殆ど家庭など振り返りもせずにいたのだ。
 だから彼女が寂しさのあまり浮気に陥ちたのも無理はなかったんだろう、と、今でも思っている。
 そして離婚は向こうから切り出してきた。
 
 「貴方より私を大切にしてくれる人がいるの…」
 そう言われ離婚届けを出してきた。
 そしてその時私は初めて妻の寂しさを知った。
 そんな自分に愕然とした、結婚して約七年、私は自分のことしか考えてなかったのだ。
 彼女のことなど、いや、彼女の寂しさなど思いもしなかったのである。
 しかし時すでに遅しであったのだ、私は素直に離婚届けに判を押した。
 こんな経緯で表面上はすんなり離婚したのだが私の内心はかなり揺れ動き、心の整理をつけるのに約一年の時間が必要なくらいであったのだ。

 友人の弁護士から、
『お前、それは慰謝料とれるぞ』
 と散々言われたのだがそんな気持ちは更々起こらなく、ローンを引き継ぐカタチで家だけを貰ったのだが、それが皮肉にもこのバブル景気で土地価格は急上昇し、買った価格の約五倍近くとなり、また一人で住むにはその家は広過ぎるということもあって、財テクも兼ねて現在のマンションに買い替えしたのだ。
 それでもまだ差額は沢山残り、今度は証券会社の後輩に進められて余禄の範囲で買ったあるゲーム会社の株が10倍以上の高値で売り抜けてしまった。
 すると驚いたことに離婚から僅か半年間で、うまくこの当時の経済の波に乗って一財産が出来てしまったのである。
 
 すると急に今までのそんな出世欲がまるで憑きものが取れたかのように消え去り、心に余裕とゆとりが生まれたのだ…

 
 
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