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第3章 黒いストッキングの女2　美冴

　19　アンニュイ

　女の口は空気より軽い、だから事前に予定の五人の履歴をチェックし、ある程度、当たりを付けておいて、面談で話してから今回の内容を話すことにしていた。
　そしてちゃんと話しをしたのは一人だけで、他の三人は却下ということに判断し、当たり障りのないように給与関係と休暇の話しで誤魔化した。
　だが、この黒い女、蒼井美冴の履歴には勿論問題はないし、それよりなぜか初めから新事業の内容の話しをしようと思っていた。

　そして彼女が目の前に座る。

　薄いダークブラウン系カラーの前下がりのボブカットの髪型が、なんとなくアンニュイな彼女の顔立ちを魅きたてており、それにナチュラルに近い化粧が更に彼女の雰囲気を魅力的にしていた。
　そしてさっき発したややハスキーな声が、顔立ちや雰囲気と見事にマッチしている。

　綺麗なひとだ、それに彼女の目…

　その目は明るくもなく、暗くもない、そして醒めた感じでもない、何かそう、まるで悟りを開いたかの様なおぼろげな不思議な目をしているのだ。
　そしてわたしは一瞬、その目に吸い込まれるような感覚になった。

　ダメだ、すでに彼女に呑まれている…

　必死に気を取り直すように彼女全体の姿を見直すと、今度は違和感を感じるのだ。

　なんだ…

　そうなのだ、どことなくアンニュイな雰囲気の美人なのに何か変なのだ、それはこのピンクのパステルカラーの夏服のベストの下に黒いブラウスを着ているからである。
　どう見てもどう考えてもこのピンクのベストとこの黒いブラウスの組み合わせは変であり、違和感を感じてしまうのであった。

　さすが、黒い女だ、制服の組み合わせなど全く気にしていないのだろうか…

　ある意味、この黒い服装を貫く姿は凄いのかもしれない、何か意味があるのだろうか、
そんなことを考えていたら少しだけ気持ちが切り替えられたみたいだ。

　そしてようやく話しを切り出した。

　「実はまだ内密な段階の話しなんですが…………」
　詳しく内容と、こちらの意向を伝える。

　「どうですか、決して蒼井さんにとっては悪い話しではないと思いますが…」
　ここまでの話しを聞いている最中も、彼女は不思議な目をしていた。
　やはりおぼろげな瞳なのだ。

　なんなんだろう、この不思議な感覚は…

　するとようやく彼女が口を開く。

　「せっかくですけど…」