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シャイニーストッキング
第3章 黒いストッキングの女2 美冴
 20 おぼろげな瞳

 ようやく彼女は口を開いた。

 「せっかくですけど…
 せっかくよいお話しをしていただいて下さっているのはわかっているんですが……」

 なんと、黒い女こと蒼井美冴は、この誘いの話しを簡単に断ってきたのだ。

 「せっかくですけど、お断りします…」
 「えっ、別に今すぐに返事はしなくても、少し考えてからでも…」
 そうわたしが言うと、間髪を入れずに

 「せっかくですが、私にはそういった類いの事には全く興味なくて…」
 興味がなくて、意欲もないのだと言ってきた。
 
 「えっ…」
 わたしは絶句してしまう。

 全く興味がない、意欲がない…

 「私は今のままで十分ですから…」
 
 「そうなんですか…でも…」
 わたしは余りにもその答え方に不思議さと、違和感を感じたので、つい話しを続けていく。

 今回事前に履歴書を見たこと
 その経歴を素晴らしく感じたこと
 そしてその持っているビジネス資格から察するに今回の話しを喜んで受けてくれると思ったこと
   を…等々、続けざまに話したのだ。

 しかし…
 「あぁ、あの履歴書ね、昔、派遣会社に入る時に出したやつだわ、余計なことを書かなければよかった…」

 「余計なこと…」
 わたしはあの素晴らしい経歴とビジネス資格を余計なことと言う彼女に、ますます不思議さと違和感を感じてきていた。

 昔、仕事上で何かあったのだろうか…

 でも、そう言う彼女からは無気力という感覚は伝わってはこないのだ。
 それに笠原主任から聞いている現在の仕事の様子からは、とてもこの無気力ということは全く感じられないのだ。
 
 「もういいんです…」

 もういいとは…

 そしてそう呟いた彼女のおぼろげな目が一瞬遠くを見た感じがしたのを、わたしは見逃さなかった。

 やはり何かある…

 だが、これ以上は聞くことはできないし、聞く理由もないのだ。
 その彼女は、悟ったような達観した、まさに名前の如く、蒼いおぼろげな瞳をしていた。
 そしてわたしはそんな彼女の不思議な瞳に魅了されつつあったのだ。

 やばい、ますます彼女に魅かれてしまう…
 更にまた新たな意味で、彼女の存在感を再認識してしまっていた。


 「……と、いうことがあったの」
 わたしはその夜のベッドの中で、この今日の面談のことを部長に話していた。

 

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