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シャイニーストッキング
第3章 黒いストッキングの女2 美冴
 37 蒼井美冴 ③

 「…と、とりあえずお話しは以上です…が、一応、もう一度よく考えてみてください…」
 
 しばしの沈黙の後、ようやくそう言ってきた、鉄の女、佐々木課長の声はすっかり最初のようなハリがなくなり、トーンも落ちていた。

 きっと私があんなに簡単に、あっさりと断ってしまったので、動揺してしまったのだろう…

 「はい…、一応考えてみます…」

 私は興味も意欲も全くないのだが、カドが立たぬようにとりあえずそう応えておいた。

 本当はこんな仕事の話しの他に少し話してみたい、と、思っていたのだが、この様子ではこれ以上は無理だろうし、そもそもそれ以外の話しをするきっかけもなかった。
 それに話している途中に余りにも彼女の様子や雰囲気が色々と変わっていたので、とても話題を変えたりはできなかったのだ。

 かなり動揺させてしまったみたい…

 そして鉄の女の意外な一面を垣間見た気がしていた。

 本当は意外にシャイで、かわいいのかもしれないなぁ…

 しかし私には面談の最後の頃に思わず本心を呟いてしまった時から彼女が見せた、あの視線が気になって仕方なかったのだ。

 なんだろう、あの目、昔、感じたことがあるような…

 私はなぜか、あの時彼女が向けてきたその視線にそう感じていた。

 そして帰り支度を終え、会社を出て、帰りの帰宅ラッシュの満員電車に揺られながら、私はあの目のことを色々と思い返し、そう考えていたのだ。

 私は通勤時のこんなスシ詰め状態の満員電車が好きであった。
 なぜなら、この人混みの中でギュウギュウに押し込められて電車に乗っているという事に、私は確実に社会の歯車の一部になっているんだ、と、自分自身で再確認できるからである。

 私は平凡でいいのだ…
 皆と同じでいいのだ…
 部品の一つでありたいのだ…
 この満員電車に乗っているとそう実感できるのであった。
 そしてスシ詰め状態で人と人に挟まり揺れながら、佐々木課長のあの綺麗な顔を思い浮かべ、あの目の記憶を懸命に手繰っていく。

 昔見た目だ、いつ、どこで感じ、見たのだろう…

 その事ばかりを考えながら人混みに流され、最寄り駅に下車し、自宅へと帰宅をした。

 五年前に離婚をし、ここ駒沢大学近くの実家に出戻っていた。
 
 そして既に父親は他界しているので母親と二人暮らしである…



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