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第14章 絡まるストッキング８　　　　　　　　部長佐々木ゆかり

　14　透明感

「ただ一つだけ、わたしが訊きたい事があります」

「はい…」

「アナタ、伊藤さんが、この保険会社、この保険業界を目指した理由が知りたいの…」
　わたしは全てを省いて、こんな質問をした。

　既に心の中では、第一印象を感じた瞬間に採用する事は決めていたのだ。
　なぜならば、まず第一に、越前屋さんの紹介であるから。

　彼女の紹介なら間違いは無い筈なのだ…

　そして第二に、目の透明感であった。

『目は口ほどに物を言う…』
　正にわたしはそんな初対面の人の目の色、印象を重視するし、今までの経験上、そんな目の判断で間違った事がなかったのである…

　あっ、いや、一人だけいた。
　いや、間違った訳では無く、迷ったのだ…

　いや、正確には吸い込まれた…である。

　それは、蒼井美冴さんの『黒い女』時代の『朧気（おぼろげ）な瞳』であった…
　あの時は本当に美冴さんの目に引き込まれ、魅了されたのだった。

　だが、今、この目の前に居る伊藤敦子さんの目は、本当に澄んだ、濁りの無い、そして透き通った透明感のある目の色なのである…

　自分の想いに迷いが無く、真っ直ぐで、そして裏が無い…
　わたしはそう感じ、こんな目の色の人に悪い人はいない、とも思ったのである。

　そして…

　あとは、なぜ、こんなに優秀なのに生命保険会社、この業界を選択したのか？…
　それが知りたいのだ。

　そしてもう一人、わたしの隣に居る越前屋さんの思いも…

　この伊藤敦子さんにしろ、越前屋朋美さんにしろ、同じ年齢なのだから就職時期は最後のバブル全盛期である
『売り手市場』時期であった筈であり、これほど優秀ならば二人ともよりどりみどりの引く手数多の筈なのである。

　ましてやこの越前屋さんに至っては、『上級国家公務員試験』合格者なのに、その国家のエリート官僚の道を蹴ってのこの『生命保険業界』の選択なのである…
　誰しも本音を訊きたい筈なのだ。

「…理由、気概が知りたいの…」
　わたしはそう尋ねる。

「あ、はい、理由ですか…」