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シャイニーストッキング
第4章 黒いストッキングの女3 ゆうじ
 33 二人の刻 ⑩

 「イヤ、ヤだよぉ、私にはゆうじしかいないのよぉ…」

 あのニュージーランドでタレントじゃなく、モデルじゃない普通の女として接してくれた人はゆうじしかいなかった。
 あのなんの下心もなく接してくれたのは後にも先にもゆうじ1人だけなんだ…
 と、涙をこぼしながら言い、そこで彼女は泣き崩れたそうだ。
 その泣き方はヒステリックで、着ていたコードやバッグ、脱いだスカート等をゆうじに向かって投げ捨て、まるで駄々っ子のように泣きじゃくった。
 
 13歳でデビューした昔から、周りの大人達が、男達が、彼女の美しさの可能性にチヤホヤし、甘やかせてしまったせいなのかもしれない、そしていくら絶ったとはいえ一度激しくハマッた薬の後遺症なのかもしれない。
 彼女は時として思い通りにいかなくなるとこうした情緒不安定さを見せてくるのだそうだ。

 「ううっ……ヤダよぉ…ひん……」
 さすがのゆうじも、この姿を見ると心が痛み、かなり揺れたそうである。

 だが、元々、ゆうじは少し前からこの決心をしていたそうなのだ。

 「ミッコ、お前には俺じゃないんだ、もうすぐお前のいる華やかな世界には俺の存在が邪魔になるはずなんだ…」

 そうなのである、確か彼女はこの先の来春からパリやミラノコレクションのモデルとしての世界デビュー予定があったのだ。
 そこでゆうじの存在がスキャンダルになるのは必至なのである。
 下手すれば彼女の全てを無くしてしまいかねない大スキャンダルになるはずなのだ。

 「………ひ、ひん……」
 約20分ほど泣いていたそうだが、彼女はふと泣き止み、顔を上げた。
 その泣き顔は目元の化粧はすっかり落ちてしまったのだが、あのニュージーランドで出会ったすっぴんの本当の彼女の顔になっていたそうだ。

 「そうよっ、もう前とは違うのっ、違うんだわ、私は世界のトップモデルになるのよ、もうあなたとなんか、ゆうじとなんかいられないんだっけ…」
 そう言いながらスカートを履き、投げ捨てたコートを着て、バッグを拾う。

 「もういいわ、ばかばかしい、冗談じゃないわ…本当は年明けたら私から…」
 
「私から……」
 言葉に詰まり、下を向き、そのあとすぐに上を向きゆうじを見つめてきた。

 そしてスッと近寄り、腕を掴み

 「さよなら……」
 
 小さな声だったそうだ…




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