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シャイニーストッキング
第4章 黒いストッキングの女3 ゆうじ
 63 最後の時間 ⑩

 今いる旅行代理店は個人経営の小さなお店である、とはいえすぐに辞める訳にはいかない。
 そして今やこの代理店の業務のほとんどが私におんぶに抱っこ状態であり、いきなり辞める訳にもいかない現実があった。
 だがもう一つ、辞めたくはないという本音もあったのだ。

 私は高校時代と大学時代の2回、夏休みを利用してのホームステイという短期留学をした。
 そしてそれから世界中を旅したい、旅行の仕事、いわゆる添乗員という職業に憧れ、教師という選択肢を捨てこの大手旅行代理店に就職したという経緯があった。
 結果的には元旦那の地方への栄転のせいで旅行代理店は辞めたのだが、将来は復職するつもりでいたのだ。
 だから本当の本音は、この仕事が好きだから辞めたくはないのである。

 「…うーん、辞める訳にはいかないなぁ」              
 「そうだよなぁ…」
 
 でもゆうじは結婚しようと言ってくれたのだ、帰ってきたら、いいや、これからもずっと一緒なのだ、今までの寂しいとは今度からは意味が違うのだ…

 「今回のハワイはゆうじには仕事だし、大丈夫だよ、気にせずに行ってきてよ」
 「う、うーん…」
 「大丈夫、帰ってきたらもうずっと一緒じゃない」
 「そうか、そう言ってくれるなら…」 
 「うん、大丈夫だよ、それに私もそろそろ一度実家に帰らなくちゃ」
 
 そうなのである、私は実家を出てから電話では何度か話したことはあるが、まだ一度も帰宅はしていなかったのだ。
 これを機に母親に会い、ゆうじのことを話すのも有りなのである。
 
 「母に話すね…ゆうじのこと…」
 「うんありがとう、あ、俺も神戸のばあちゃんにみっさのこと話さないと」
 「あ、神戸の…」
 「そうなんだよ、ホントばあちゃんには世話になりっぱなしでさぁ、喜ぶぞぉ」

 13歳から親代わりに神戸から来てゆうじを育てたおばあちゃん、私も会ってみたい…

 「あと3日だから準備も大変だね」
 「そうなんだよ、でも急だけどチケットは取れたから、あと、新ブランドの話しも明日商社に行かなくちゃならないし、チョー忙しくなっちゃったんだよ」
 「あーあ、大変だね」
 「うん…だからさぁ…」
 「え、だから?」
 「エッチしよ…」 
 満面の笑みで言ってきたのだ。

 「もう、すぐそれなんだからぁ」
 
 

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