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シャイニーストッキング
第19章 もつれるストッキング3          常務取締役大原浩一
 90 秘書 松下律子(18)

「でも青山さんの事は………嫌いではないわよ」
 
「え…」

 これも本音である…
 ただし、彼である大原浩一常務を待つ時間潰しの相手としては、最高に楽しい相手という意味である。

「ただし、常務待ちの間としてね…
 わたしをこうして褒め殺ししてくれるから、最高に楽しいわ」
 と、少し皮肉を込めてそう言った。

「そ、そんな褒め殺しなんてぇ…
 自分の言ってる事は全部が本心なんですけどねぇ…
 例えば、そのシャワー上りのさり気ない薄化粧とかぁ…
 このセンスのよいワンピースとかぁ…
 あ、あとその細くて美しい二の腕…」

「ほらぁそんな明からさまに、お世辞的な褒め殺しの言葉をこんなに続けて言われたのなんかぁ、初めてだしぃ」

「あ、いや、お世辞じゃなくって本気、本音ですからぁ」

「えぇ、信じられないわ、本当にお上手としか思えないわぁ」
 そう、とても本心とは思えない、いや、ナンパの口説きの常套句にしか聞こえない。

「え、そんなぁ…
 逆に、これがお世辞だったら、こんなに沢山の誉め言葉なんて恥ずかしくて並べられないですからぁ…」

「そうなのかなぁ?」

「そうですよ、あまりにもワザとらしくてぇ…」

 いや、わたしはとうにワザとらしいとずぅっと思っているのだが…

「例えばぁ、そのさり気ない薄化粧にその艶々な唇」

 いや、サラッと眉毛を書いて、リップグロスを塗ってあるだけなのだけれど…

「そしてその都会のセンスの匂うワンピース」

 いや、普段着なんだけど…

「極めつけはその美しく細い二の腕…
 自分は、どんなに美人さんだとしても二の腕が太いと醒めちゃうんですよ…」

 あ、まぁ、この二の腕は彼にも以前褒められたけども…

「え、あ、それは…嬉しいかも…」
 また少しだけ、ドキンとしてしまう…
 そう、根本的には彼に対しての嫌悪感や不快感は感じてはいない。

 だが、内心はこれが危険だと、深層の深いところが囁いてきているのだ…

 そしてこの徐々に暮れていく夕闇に浮かぶ新潟市内の煌めく夜景が…
 ゆっくりと警戒心を解してきていた。

「日本海の季節の魚介のパスタです」
 料理が運ばれてくる。

 そしてわたしは彼を見る…

「あ、はい、これも抜群に美味いですよ」
 開き直った彼が、そう素直に言ってきた。



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