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シャイニーストッキング
第5章 黒いストッキングの女4     部長大原浩一
 22 律子 ⑪

 「ここは…」
 私は寝落ちしてここに運ばれてきたので、このマンションがどこにあるのかわからなかったのだ。

 「天王洲アイルです」
 最新の商業地と再開発街計画によって推し進められた新進気鋭の埋め立地である。

 「天王洲か…」
 恐らくこのマンションは億は下るまい、私はそう思いながらコーヒーカップを片手に朝日の差し込むカーテンを開く。
 その窓の眼下には朝日に碧く照らされている品川の海が広がり、数々のコンテナの置いてある埠頭、そして遠くには羽田空港が見えていた。

 「すごい…」
 多分、30階以上の高さであると思われる。

 「すごくないですよ、高過ぎます、こんな高さ必要ないです、まるで……」 

 まるで…

 律子はそう言って言葉を閉ざした。

 「それより時間大丈夫なんですか」
 そしてそう言って誤魔化したように感じられたのだが、確かに時間が迫っていたのだ。

 「あ、ヤバいや」
 私はそう言ってコーヒーをグイッと飲み干した、彼女の煎れたコーヒーは美味しかった。
 そして焦ってしまった、昨夜のままだから着替えがなかったのだ。
 すると
 「ワイシャツはこれで大丈夫ですか」
 彼女はそう言って、ワイシャツ、靴下、ネクタイを3本程出してきたのだ。

 「えっ、あ、いや…」
 「ワイシャツ着てみてください、小さかったら確かもうワンサイズ上のがありますから」
 「あ、うん…」
 ワイシャツは大丈夫であった。

 「このネクタイどうですか」
 そう言って胸元に合わせてくる、近寄る彼女の美しい顔に今さらながらまたドキッとしてしまったのだ。

 「あら、素敵」
 「そうか…」
 「趣味じゃなくて?」
 「いやそんなことないよ」
 「じゃ、よかったわ」
 「それより…」
 私はそれよりなぜこんな男モノがあるのか、と訊こうと顔を見ると
 
 それは訊かないで…
 
 という目を返してくる。
 我ながら野暮なことを訊こうとしてしまい、一瞬の内に後悔してしまう。

 「私は銀座の女ですから…」
 ただ一言そう呟いたのだ。

 「このワイシャツはクリーニング出しときますから、必ず取りに来てくださいね」
 「え、いいのに」
 「いいえ、ダメです、そのかわりお店じゃなくて必ずここに取りに来てください」

 その目は有無を言わさない強さであったのだ…

 



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