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シャイニーストッキング
第5章 黒いストッキングの女4     部長大原浩一
 25 越前屋朋美(えちぜんやともみ)①

 保険会社の営業部との会議は荒れた。
 それは仕方ないことだとは思う、自分の会社が破綻寸前でM&Aでの吸収合併により完全子会社化されてしまうのを今日初めて聞くのだから、これは至極普通の反応であるといえた。

 この吸収合併は今日の会議までは主な役員、役職以外の社員には秘密厳守にしてあり、今日のこの会議に参加している主だった営業部の社員にとっては正に寝耳に水の話しであったのだ。
 そして突然、見たことも無い私がこうしてこの保険会社の専務と共に執行役員として会議に参加しているのだから、社員達の動揺に更に拍車をかけてしまったことは仕方のない事といえた。
 しかし私はその動揺する社員達1人1人の表情を、しっかりと確認していたのである。

 なぜなら、いくら子会社化されるとはいえ倒産する訳ではないし、リストラするとも一言も言ってはいないのである、だから各々の動揺の表情にも、これをチャンスと見るのか、この先の自分の行く末に焦燥しているのか、というこの表情の違いを私は見比べていたのであった。
 そしてその私の各々のチェック等を、この保険会社側から新規事業への異動を推薦され、内示されている越前屋朋美という保険部総合職の彼女に記させていたのだ。
 私はこの越前屋朋美という東大卒のエリートの彼女を、ゆくゆくは佐々木ゆかり課長の部下として配置する予定のつもりなのである。
 
 実は私はこの会議の30分前に、この彼女と面談形式で会話していた。

 「………という訳でこの会社を完全子会社化して、新たなカタチの保険会社にしようと我々は計画しているのだが………」
 初対面でいきなり本題を説明した、そしてそれについての意見を聞いたのだ。

 「何でもいい、今、この私の話しを聞いてキミが思ったことや、気持ち、感想でもいい、できれば本音を話してくれないか…」
 この話しはあくまでも私ひとりの胸の内にしまっておくから、と、私は彼女の目をずっと逸らさずにそう話す。
 すると、彼女は二重の大きな目で私を見返してきた。
 そんな彼女の目には動揺の色は感じなく、逆に一瞬輝いたように感じられたのだ。 

 おっ面白いかも…
 そう思った。

 「何でもいいんですか…」
 私は頷く。

 「本音は…よかったと思います」
 「えっ…」
 予想外の答えであった。

 



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