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シャイニーストッキング
第5章 黒いストッキングの女4     部長大原浩一
 28 アヒルキャラ

 そのネクタイの柄が某夢の国の有名なアヒルのキャラクターの顔であったのだ。

 「て、てっきり紺地に小さな水玉模様かなと…」
 「ふうぅん、まだ老眼には早い気がしますけどねぇ…」
 笑みを浮かべてはいるが目は笑っていない。

 「それに、なんか甘い香りが…」
 ゆかりはそう言いながら鼻をひくひくさせて香りを探っているようだ。
 背中に冷や汗が流れてくる。

 「あ、シャネルだ…18番かな…」
 我々はこの店の個室にいる、だから他のお客の香りとは誤魔化せない。
 本当に、ネクタイに付いているほんの微妙な残り香なのだが女の鼻は敏感である。

 ヤバい…
 冷や汗が額に滲んできた。


 ブー、ブー、ブー…
 その時彼女の携帯電話が着信したのだ。

 「……はい、わかった、なるべく早く戻りますね」
 電話を切って彼女は私を見る。

 おっ、顔が戻ったかも…

 「今朝、体調不良者が2人も出てシフトが狂っちゃって…」
 午前中から慣れない変わりのメンバーによる小さなトラブルが続いているのだと言ってきた。

 「急いで戻らなくちゃ」
 「大変そうだな」
 「そうですね、お互いに色々とね…」
 チクリと刺された。
 だが、目は怒ってはいない。

 「ま、とりあえず、この件はそういうことにしておきますね」
 今度は目も笑っていたのだ。

 私はピンチを脱した…

 「もう戻らなくちゃ」
 時計を覗き、呟く。

 「そうか…」
 「そうなんですよ、それに明日は明日で例の黒い彼女の、蒼井美冴さんの面談もしなくちゃならないので…」

 あの例の、社員雇用制度の話しか…

 「お先しますね、また、明日……かな」
 彼女はそう言い残して先に店を出た。

 ん、また明日って…
 私はそんな彼女の意味ありげな言葉を思い返す。

 あ、そうか、明日、例の黒い彼女と会うから、また夜逢いにくるということか…
 私はそう理解をし、今夜、明日と体調を整えておかねばならないと思ったのだ。
 
 それにしても律子にやられたな…

 まさか夢の国のアヒルのキャラクター柄だとは思いもしなかった。
 ふと律子の小悪魔的な笑みが思い浮かんでくる。
 そして午前中に越前屋に軽く面談をした時に
 『大原本部長て、意外にかわいいんですね』
 …と、彼女が微笑んだ意味もわかったような気がした。


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