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シャイニーストッキング
第5章 黒いストッキングの女4     部長大原浩一
 37 夢の中

「今、帝国劇場で観劇してきまして…」
 もしも近くにいるなら逢いたいと云ってきたのだ。

「君はもしかして私にGPSでも付けているのか…」
 適当に流せばよかったのだが、なぜか嘘がつけずに本当のことを言ってしまったのだ。
 
「まあ嬉しい」
「今、東京タワーの真下にいるんだ」
「東京タワー…行きたいです」

 私達は30分後にプリンスパークタワーのスカイラウンジで待ち合わせする。

「お待たせしました…」
 現れた律子は全身黒のゆったりとしたノースリーブのワンピースに黒いレースのショールを羽織っていた…
 そんな律子を見た瞬間、私は例の黒い彼女を思い出してしまった。

 なぜなら膝下丈のスカートから見える美しい脚は、艶やかな黒いストッキングを穿いていたから…

 やはり律子は美しい、あの子とはまるで違う…
 さっきまで一緒にいた越前屋朋美と年齢が近いので一瞬比べてしまった、だが、同じ女性としてまるで正反対のタイプだから比べる事自体がおかしいのである。

 そして私達は目の前にライトアップされた東京タワーを眺められるカウンターに座った。

「キールロワイヤルを…」
「何を観てきたの」
「レ・ミゼラブルです」
 世界中で愛されている代表的なミュージカルである。

「よくミュージカルとか観劇するのかい」
「はい、好きなんです、意外でしょう」
「そんなことないさ、似合ってるよ」
「嬉しい…そんなお世辞も言うんですね」
「いや、お世辞じゃないさ、それより…」
「えっ…」
 私の言いたいことを察したのか、また小悪魔的な笑みを浮かべる。

「それよりネクタイ、やってくれたな…」
「えっ、あ、ふふ」
「おかげさまで女子達に好評でさ」
 嫌味を込めたつもりなのだが、嫌味にはなり切れなかった。

「そうでしょう、意外に評判よかったでしょう、それに似合って素敵でしたし…」

「あの柄に気付いてからは冷や汗モンだったんだぜ…」
 それからしばらく雑談をしていく。
 だが、なぜか一昨日の夜の話しはお互いにしなかった、いや、敢えてしなかったのだ。

 不粋な話しをして現実に戻るよりも、こうして目の前の幻想的にライトアップされた東京タワーを眺めながら、微かに酒に酔い痴れ、夢の中に漂っているようなこの雰囲気に浸っている方が心地良かったからなのだと思う…



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