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シャイニーストッキング
第5章 黒いストッキングの女4     部長大原浩一
 39 絡まる指先

 「じゃあ、あのネクタイも…」
 「はい、わたしの趣味です」
 「ふうん…」
 「なんか恥ずかしいわ」
 「いや、そんなことないさ、かわいいよ」
 「えっ、いやだ、かわいいなんて言われたの何年ぶりかしら…」
 カクテルの酔いのせいなのか、それとも照れのせいなのか、心なしか彼女の顔が紅くなったように見えたのだ。
 そんな彼女の様子が私には、いつも見ている銀座の店や、一昨日の夜とは全く違って見えていたのだ、そして新たな魅力を感じていた。

 なんだぁ、やばい、少しときめいてきたぞ…
 それにそんな彼女からは、昨夜、専務から聞いたあの過去の翳り等は全く感じられなかったのだ。
 私はこの新たな魅力が溢れてきている彼女の表情に、魅了されつつあったのである。

 「大原さんの笑い顔ってなんとなく…」
 なんとなく、なんだ…

 「ダックに似てるの」
 「ま、まさか…」
 「そう、その目尻に皺が寄るその笑い顔がなんとなく似ているの…」
 「いやいや…」
 いやいやそれはないだろうと笑う。

 「だから好きなんです」

 やばっ…

 ドキッと、ときめいてしまった。

 「そ、そんなこと…」
 「本当です…」
 彼女はその濡れた瞳で私を見つめてくるのだ。

 ドキ、ドキ、ドキ…
 年甲斐もなくときめきを覚えてしまう。

 「だから私だったのか…」
 「そう、あなた……なんです」

 あなた…
 そう囁く彼女の艶やかな唇から目が離せなくなってしまった。

 まずい、抱きたくなってきた…
 
 するとカウンターの下で、彼女の指先がスッと私の膝に触れてきたのだ。

 だ、ダメだ、ここは冷静に…
 しかしカラダはそんな心と反比例の動きをした。
 なんと私は無条件反射のように、その彼女の指先に自らの指先を絡めてしまったのだ。

 「ふうぅ…」
 そして彼女は妖しく濡れた瞳で私を誘うかのように見つめ、甘い吐息を漏らすのだ。

 ドキ、ドキ、ドキ、ドキ…
 胸の高鳴りだけしか聞こえなくなってきていた。

 ああ、抱きたい、一昨日の情景が脳裏に思い浮かんできた…
 絡まる指先に力がこもる。

 我慢が…






 ブー、ブー、ブー、ブー

 その時、カウンターの上に置いてある携帯電話のバイブレーションが着信の震えを起こし、私を夢の中から現実へと呼び戻してきたのだ…



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