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シャイニーストッキング
第5章 黒いストッキングの女4     部長大原浩一
 41 二兎追うものは一兎も得ず 

 スカイラウンジを出てエレベーターに乗ると、律子がスッと顔を近づけてきた。
 そして私もそんな彼女に思わず顔を向ける、と、さりげなく唇を寄せてくる。

 「……き」
 律子はそう何かを囁き、私達は唇を交わす。
 そして私は躰を寄せてきた彼女に腕を回して肩を抱いてしまうのだ。
 そして私は、先ほどゆかりと電話で話したのにもかかわらず、こうして律子の唇を何の躊躇もなく受け入れてしまう自分に対して嫌気を感じてしまっていた。
 しかしどうしても律子の唇から逃れられないのである。
 心が震えてしまうのだ…
 なぜか、この律子の声に、この艶やかな唇の感触に、この甘いキスと漂う甘い香りに、心が震えて止まないのである。
 そして今夜、新たに知った彼女の魅力にもすっかり魅了されてしまってもいた。
 だからといってゆかりと終わりにするつもりも全くない、いや愛している。
 そんな揺れ動く最悪な想いが、ザワザワと私の胸の奥に渦巻き始めてきていた。

 「じゃあ…おやすみなさい」
 「ああ、おやすみ」
 律子を先にタクシーに乗せ、別れの言葉を交わす。
 そして律子はタクシーが走り出しても私を見ていた。
 そんな彼女に私の心は見透かされているようであったのだ。
 走り過ぎてゆく赤いテールランプを見て、私の胸は再びザワザワと騒めき始めてきていた。

 二兎追うものは一兎も得ず …

 私の心の中に、そんなことわざが浮かんでくるのである。
 そしてそう自らを卑下する想いにもかかわらず、律子の新たな魅力に魅了されている自分を知って更に卑下してしまっていた。
 
 ダメだ私は最悪だ、今に泣きを見るぞ…
 タクシーに乗りながらそんな想いをぐだぐだと考えていたのである。
 そして自宅マンションに着き、シャワーを浴び、缶ビールを飲みながらパソコンのメールのチェックをし、ベッドに横になると携帯電話がメールを受信した。

 『今夜はごちそうさまでした。
 忘れずに必ずクリーニングを取りに来てくださいませ     律子』
 ある意味、このメールは律子の心の慟哭である。
 私は再びザワザワと胸が騒めき始めていた。
 そして脳裏にはゆかりと律子の二人の顔が浮かんでは消え、消えては浮かぶ、を交互に繰り返していたのだった。

 贅沢な悩み、そして想いであったのだ…




 
 
 
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