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シャイニーストッキング
第5章 黒いストッキングの女4     部長大原浩一
 46 帰途の寄り道

 「とりあえず今日は終了でよいのかな」
 「はい、次は来週月曜の資産運用管理部ですね」
 「そうか、資産運用管理部か…」
 いよいよこの保険会社の中で一番に腐った深淵部である。

 この週末に少し対応を考えて望むとしよう…
 私はゆかりにも言われた通り、今夜から少しゆっくりして週明けに備えようと考えていたのだ。

 「そうか、じゃあ、今日は私は帰るよ」
  時計は18時を指していた。
 
 「はい、お疲れさまです…」
 「うん、また来週月曜だな、お疲れさま」
 私はそう言って会社を出て、帰途のタクシーを拾う。

 すると疲れと週末の緩みもあったのだろう、私はタクシーの中で少しウトウトと微睡んでしまうのである。

 「ちょっとお客さん…」
 そう言うタクシー運転手の声でハッと起きたのだ。

 「なんか緊急工事とやらで大渋滞にハマっちゃいまして…」
 すっかりと前後にびっしりクルマが停車していた。

 「ここは…」
 「うーん、太子堂の辺りですね」

 太子堂か、三軒茶屋のマンションまではそれ程の距離ではないな…
 
 「じゃあいいや、夜風にでも当たりながら歩いて帰るよ、ここで下りるわ…」
 私はそう言ってタクシーを降りたのだ。
 たまに歩くのも悪くはない。
 ただ、真夏の湿った生ぬるい風が予想以上に蒸し暑さを感じさせてくる。

 ああ蒸し暑いや、喉が渇いたな、それに少し腹も減ってきた…

 「コンビニでも寄るか…」
 この辺りの地図を脳裏に浮かべコンビニへと足を向けると、小さな通りに出た。

 うん、これは飲食店か…

 10階建ての雑居ビルの1階に、軽くアイビーの蔦が絡まり、板張りの落ち着きのある入り口の店が目に止まった。

 『カフェバー 波道』
 と、小さな看板がライトに照らされている。

 「カフェバーか、食い物も酒もあるな…」

 波道、波の道か、サーフィンかな、懐かしいかも…
 そう、私は大学の4年間サーフィンをしていた、それで少し懐かしい思いが湧いてきたのだ。

 この真夏の夜の蒸し暑さのせいなのかもしれなかった、私はこの、波の道『波道』という名前に惹かれ店のドアを開けた。

 「いらっしゃいませ…」
 その店員の声に導かれ、カウンターへと向かう。

 店内はやはりサーファーの店らしくムスク系の甘い香りが漂っていた…

 



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