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シャイニーストッキング
第5章 黒いストッキングの女4     部長大原浩一
 47 邂逅の想い

 店内はやはりサーファーの店らしくムスク系の甘い香りが漂っていた。

 私はおそらく若いサーファー達の溜まり場的な、チャラチャラとした軽い店かもしれないと予想して店に入ったのだ。
 だが、そんな予想に反していた。
 店内は決して邪魔にならない程度の音量のレゲエが静かに流れ、照明もバーらしくやや暗く、漂っているムスク系の香りもほんの僅かな残り香程度の、なんとなく落ち着いた私好みの雰囲気なのである。
 もし最初の予想通りだったなら、私はひと言詫びて踵を返して退店しようと思っていたのだが、この落ち着いた雰囲気とほのかに漂う甘いムスク系の香りに、懐かしい邂逅の想いが心に僅かに湧きながらカウンターに座ったのだ。

 「いらっしゃいませ、初めてっスよね」
 「ああ、ちょっと通りかかったんでね」
 「そうですか、ゆっくりしてって下さい」
 カウンターから声を掛けてきたのはオーナーだろうか、30代半ばの海の陽に焼けたサーファーのオーラ漂う男性がメニューを出しながらそう言ってきた。

 懐かしい邂逅の想い…
 私は高校時代までは甲子園出場に憧れて真剣に野球をやっていた、しかし高校2年時に今後、野球が出来ない程の致命的な怪我をしてしまった。
 出来れば大学まで野球を続け、いや、人生のその先までも野球に関わって生きていきたい位に当時は青春の全てを野球に掛けていたのだ。
 だが怪我によりその想いは叶わず、挫折感と悲愴感、そして先が見えなくなってしまった焦燥感に襲われていたのだが、当時は第2次サーフィンブームが爆発的に巻き起こっていた。
 そして私もその流れに乗るように高3の時に先輩に誘われ偶然にもサーフィンに出会い、そこから大学の4年間は発足したばかりのサーフィン部に入り、野球が出来ない鬱屈した想いをぶつけ、サーフィンに没頭する。
 但し私にはサーフィンは野球より遙かに難しく、大学時代まででサーフィンは終わり、その後社会人となって出世の為の接待ゴルフをするようになったのだ。

 「ジントニックとこのオリジナルハンバーガーを…」
 そう注文し、そんな邂逅の想いを巡らしながら、ゆっくりと店内を見回していく。
 サーファーの店らしからぬ落ち着いた店内の装飾の中にさりげなくサーフィンの雰囲気を醸し出した、よい店であった。

 こんないい店が近くにあったとは…




 
 
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