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シャイニーストッキング
第21章 もつれるストッキング5   美冴
 19 揺らがる波紋…

『うん、わかった、そうよね、また明日から頑張るわ…』
 わたしの波紋に揺らぐ心の水面がゆっくりと、穏やかに、静まっていく……


 カラン……

 だが…

「いらっしゃいませ、お一人ですか?」
 この来客が…

『あっ…』
 
「あぁ、うん、あれ、オーナーは?」
 この声が…

『えっ…』
 また直ぐに、心の水面を激しく揺らがせる。

 そう、それは……

「はい、オーナーは今日は私用で、まだ暫くは戻らないかと…」
 スタッフの言葉に…
「あ、うん、いい、大丈夫だよ、カウンターいいかな?」
 そう応えるその声は…

「どうぞ…」
 
「あぁ、ありがとう」
 その声はそう応え…
 わたしの左側に導かれる。

 この席は、入り口からは観葉植物の鉢で陰になっていた…
 そしてわたしはサッと、右側の壁の方を向く。

 どうやらその声の主は、このやや照明を落とした薄暗さのせいなのか、まだわたしの存在には気付いていないみたい…

「とりあえず、ワイルドターキーのロックを…」
 と、オーダーした。

 その見た目よりは意外に高い声音と、それに相乗するような優しい響きが…
 ザワザワと…
 ようやく静まった心の水面を、また、ゆらゆらと波紋を広げてくる。

 そして…
「ふぅ……」
 彼はそんな吐息を、いや、小さなため息を吐き…
 
 かチャ、シュッ…

 咥えたタバコに、ジッポーライターで火を点け…
「ふうぅぅ…」
 大きく、ゆっくりと煙を吐く。

 その漂うタバコの匂いに…
 亡きゆうじと同じ銘柄のタバコの匂いが…
 ゆらゆらと漂い、わたしに纏わり、鼻孔を刺激し…
 心の水面の揺らぎをうねりへと変えてくる。
 
 わたしはその漂う煙を透かし、その奥に、ゆうじの残穢の存在感を、再び強く感じ…
 そしてそのうねりが、ザワザワとした騒めきという波紋を波たたせてきた。


「うふ…
 あら、ずいぶんな……ため息だこと……」
 
 声を掛けるか逡巡したが…
 この騒めきの正体の意味に、少し嫌みに、少し意地悪気味に、囁かずにはいられなかったのだ。

「えっ……
 あ、あ、蒼井…くん……か?……」

 だが、彼は…

 大原常務は…

 この不意な声に驚き、いや、もしかしたら…

 わたしがここに居ることを…

 予想していたのかもしれない………



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