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シャイニーストッキング
第5章 黒いストッキングの女4     部長大原浩一
 76 真夏の夜の夢

 まさか、美冴の亡くなった元婚約者の
 沢村ゆうじに導かれたとでもいうのだろうか…

 突然に、ふと、私にそんな想いが浮かび、胸の奥の騒めきがザワザワからドキドキに変わってきたのだ。

 まさか、そんなバカなことは…

 だが、そんな不思議な導きのせいにすると、今夜の今までに至る全ての流れが妙に合致してしまうのである。

 そんなバカな、まるで真夏の夜の夢みたいじゃないか…

 しかし、確かに真夏の夜の夢のようではあるのだ。
 そもそものこの出会いからして、とても偶然とは想えないのである、帰途中のタクシーで居眠りしていて突然の緊急工事の渋滞に巻き込まれ仕方なくタクシーを下車した、いつもの私ならいくら夜とはいえこの真夏の蒸し暑さの中で、例え15~20分の距離でも歩こうという気持ちが起きる筈がないのだ。
 そしてまたこの『波道』というサーファーの店に入ったこともとても偶然だとは想えないのだ、いくら大学の4年間にサーフィンをしていたとはいえ、およそ20年前のことであり、その店の入り口を見るまではサーフィンに対しての邂逅の想い等を、大学卒業以来全く持ったことがないのに、懐かしさに誘われるかのように入店したのである。

 これらの事実だけでも、不思議な力に導かれたせいなのだといえるのではないのだろうか…
 それ以外に説明を付けられない気がするし、とても偶然だとは思えないのだ。
 そう想った途端に、彼が、ゆうじが、どこからか私を見ているような気がしてしまい、思わずこの部屋を見回してしまう。

 間違いではないような気がしていた…

 そしてあの時美冴は
「今日で黒い女も終わり…」
 と、そうも言ったのだ。
 既に、あの時彼女はこの出会いの導きを悟っていて、ゆうじという存在を自身の中で確信し、煙草の煙の向こう側に見える彼と心で会話をして惜別の別れをし、私を選んだのではなかろうか。
 その時の心境は彼女に訊かないとわからないのだが、私にはなんとなくそう想えるのである。

 全ては真夏の夜の夢の導きなのかもしれないな…

 私はそう想うことにしたのである。
 そしてそう想った途端に胸の騒めきは治まり、急に気持ちも落ち着いてきたのだ。
 しかしその反面である、急激にもの凄い罪悪感が再び顔を露わしてきたのであった。

 ゆかりの顔が浮かび上がってきた…



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