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第5章 黒いストッキングの女4　　　　　部長大原浩一

　89　名残り

「美冴くん宅はどの辺りなんだ」
「駒沢大学の近くなんです…」
「そうなのか、意外に近くだったんだなぁ」
「そうみたいですね…」

　私は名残惜しいのだが、蒼井美冴とホテル前で別れて、帰途に向かう事にした。
　本音はこの後二人でブランチでも食べながらもう少し話しをしたかったのだが、なんとなく彼女の方が帰りたがっている様な感じが伝わってきたので誘うのを止めたのである。

　本当に彼女の内面的なモノが、昨夜からの私との逢瀬をきっかけに劇的に変化をしたのを感じたし、見た目でも今までの正に、黒い女、という存在から生まれ変わったかのように明るく変化したのが見受けられたのだ。
　そう、昨日までの私が知っていた、黒い女のイメージは完全に消え失せ、新たな魅力溢れる蒼井美冴という女性が現れた感じであった。

　本当に生まれ変わったみたいだな…

　そしてその新たに生まれ変わった彼女は更に魅力を増した女性になり、即刻、私の心を魅了してきたのである。
　それが私のもう少し話しがしたかった、という想いの現れなんだと思うのだ。

　恐らく彼女はいま、昨日まで続いていた、元婚約者の沢村ゆうじの突然の死の絶望による喪に服す、という理由による全ての欲望、希望等の抑制から、心の解放をした想いの実感の中に浸っているのだと思われるのである。
　そして一刻も早く、今までの喪に服しているという表現である、黒い女、というイメージから脱却したいのであろう…
　と、私には伝わってきたのであった。

　その為の美容室であり、ファッション等の意欲なのであろう…
　だから私はまたまだ名残惜しいのだが、これ以上彼女を引き留める事はしなかったのである。

　そして私は彼女と別れ、歩いて帰途に就く事にしたのだが、既に気温は30℃を超える勢いの暑さになっていた。
　しかし本当に僅か徒歩10分程の距離であったのだ。

　いや、本当に近くだったんだ、最近はこうして歩くなんて事はしないから全く近所の事などわからないや…
　しかし僅かな距離とはいえ、すっかり汗だくになってしまった、そしてマンションに帰宅するなりシャワーを浴びる。

　だが、シャワーを浴びている最中にまた、再び、あの昨夜のシャワールームでの美冴との逢瀬が脳裏に蘇ってくるのであった。

　その想いと共に罪悪感が再び胸に湧き起こってきたのだ…