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シャイニーストッキング
第6章 黒いストッキングの女5     課長佐々木ゆかり
 4 シャネルの甘い香り

「あっ…」
 大原部長の締めているそのネクタイの表面の柄が某夢の国の有名なアヒルのキャラクターの顔なのだ、そのキャラの小さな顔が沢山笑っているのである。
 わたしの追及で、ようやく部長はそのネクタイ柄に気付いたようであったのだ。

「こ、これは、今朝、慌ててクローゼットの奥のやつを…」
 すっかり動揺していた。
 そして何かを思い出すかのように目を上目遣いに泳がせて、もろに動揺していたのである。
 その様子は本当に面白く、わたしはとうに怒る気力も無くなっていたのだ。

 どうせ銀座のお姉さんにでも悪戯を仕掛けられたのだろう…
 位に考えていたのだ。
 なぜかそんな銀座の夜の女関係にはわたしの心はそれ程に騒つかないのだが、彼女のこと、そう、黒い女、蒼井美冴の事だけはどうしても敏感な反応してしまうようである、と、この時にふと思ったのである。

 どうしても彼女を部長には会わせたくはない…
 なぜか常にその想いだけが心の片隅にしこりのように存在しているのだ。
 そして多分、その想いの意味も最近ようやくわかったのだが、それはわたし自身のプライドをも否定しかねないので、敢えて深く考えないように心の1番奥深くにしまい込んでいた。
 だからわたしはそんな感じではあるのだが、この場ではとりあえず釘を刺す意味もあり少しだけ不機嫌なふりをしたのだ。

 やられた…
 部長はそんな顔をし、そして必死に言い訳をしてくる。

「て、てっきり紺地に小さな水玉模様かなと…」
「ふうぅん、まだ老眼には早い気がしますけどねぇ…」
 そう言ってすぐに突き放す。
 すると部長は面白いように狼狽えていくのであった。
 そして更にダメ押しをする。

「それに、なんか甘い香りが…」
 そう言いながら鼻をひくひくさせて香りを探るふりをした、既にもう予想は付いているのだが、面白くてからかうのが止められなかったのだ。
 多分、部長にとっては冷や汗モノの動揺であろう。

「あ、シャネルだ…18番かな…」
 わたしはそう呟いたのだ。
 そう言った時、部長は相当動揺しているみたいだった。
 シャネルの18番の香水は高級な香りとして、巷の夜のお姉様方の間では最近流行っているのだ。
 どう、落としてやろうかな…
 わたしは決して本気で怒ってはいない、そろそろ落とし処を探っていたのである。
 


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