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シャイニーストッキング
第6章 黒いストッキングの女5     課長佐々木ゆかり
 8 企画書

「あと見て欲しい案件があって…」
 杉山くんはそう言って茶封筒を手渡してきた。

「じゃあタクシーで行こうか」
 間もなく16時になろうというのに、外気はむせ返るような蒸し暑さであった。

 わたしは冷房が効き過ぎる位の車内で手渡された茶封筒から書類を取り出す、営業企画書である。

「うーん、どれどれ…」
 そしてわたしはこの企画書を一読して驚いて、思わず横に座っている杉山くんを見た。

「な、何これっ、凄いじゃない…」
「はい…」
 少し得意気な顔をしている。

 この企画書の内容は…
 いわゆるうちのコールセンター事業部はお客様からの電話対応のみのいわゆるインバウンドという受け専門の業務なのであるが、この企画書には、その従来の業務に新たに加えて、アンケート、市場調査、といういわゆるアウトバウンドといわれる業務、要はこちら側から電話を掛ける、という今までのインバウンドとは真逆の業務をこの若手営業の杉山くんが、非常に大きなこの仕事を既に取ったも同然という、企画書というよりは報告書に近い書類であった。
 これは大手テレビ局3社からの業務委託であり、業績、売り上げ等を鑑みても素晴らしい営業成績になるといえるのである。

「えっ、まさか、あとは単価等の数字だけまでいってるの…」
「まあ、大まかな概略だけですけど…」
「マジ、凄いじゃないっ、これ1人で…」
 本当にわたしは驚いていたのだ。
 これが決まると、コールセンター部の売り上げは倍増するのが見込まれ、そして当然に規模の拡大も必要となるだろう。
 それ程の企画であるのだ。

「あとは、部長と課長に力になって貰って…」
「いや、当然、力になりますけど…」
 ただ、ふと、脳裏によぎるのだ。
 それは…
 ただタイミング、時期が悪かった、いや、決して悪くはないのだが、私達だけには、そう、わたしと部長にとってだけはタイミングが悪過ぎるのである。
 この絶対に失敗できない新規事業を間近に控えている今だからこそ、このタイミングは悪過ぎたのだ。
 入社2年目の若手のイチ平社員はそんな事情は全く知らないのである。
 だがこの素晴らしい、ここまで進んでいる企画は無くせない、そんな事は出来ないのだ。

 プラスになる事案は全てゆかりの一任で決めていいぞ、ケツ持ちはするから…
 そう部長の声が聞こえてくる。
 




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