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シャイニーストッキング
第6章 黒いストッキングの女5     課長佐々木ゆかり
 18 シロウト童貞

「あっ、そうだ、これホテル代ね」
 わたしは財布からお金を出して手渡そうとする。

「あ、大丈夫っす」
「ええっ、ダメよ、いっぱい迷惑も掛けたし」
「いや、大丈夫っすよ」
「ダメよ、わたしは上司だし、あっ、それと焼き鳥屋の会計も…」
「本当に大丈夫ですから」
「そんな…」
 立場もある、少し困ってしまう。

「あっ、そうだ、じゃあ、今度、ご飯ご馳走してくださいっすよ」
 そうにこやかに言ってきたのだ。

「そうだ、それがいいっす」
「うーん、じゃあ、そういう事にするか」
「そうですよ、それがいいっす」
「なんか、調子に乗ってない…」
 わたしはそう軽く言った。

「あっ、すいません、乗ってないっす」
 だが、杉山くんはかわいかった。

「あっそうだ、この事は絶対に内緒だからね、絶対に誰にも言わないでね」
「勿論すよ、誰にも言いませんから、特に部長には…」

「えっ…」
 わたしはドキッとした、心臓が止まるくらいにドキッとしてしまった。

「な、なにを…」
「だって課長、寝ぼけてて焼き鳥屋からホテルまでの間に…」
「えっ、間に…」
「何度も、僕の事を部長って呼んでましたよ」
 わたしは全身から血の気が引いた様な感じがしたのだ。

「えっ、ま、マジで…」
 絶句してしまい、言葉が続かない。
 でも杉山くんの表情には全く悪意や、邪推の類は伺えないのだ。

「いやぁ、課長さんはそんなに部長の事を尊敬してるのかなぁって…」
「えっ、尊敬…」
「はい、だって、何度も何度も、部長すいません、申し訳ないです…って言ってましたから、そんなに尊敬してるんだなぁって…」

「ええ…」
 マジか、そんな事を…

「でも、大原部長って格好いいっすもんね、部長は営業上がりなんすよね…」
「…………」
 言葉が出なかった。

「僕もああ成りたいって憧れてるんすよ、あ、勿論、課長も営業上がりっすよね」
 わたしは頷く。

「課長も尊敬してるっす…」

 さすがシロウト童貞である、少し恋愛関係にはズレているようである。

 よかった、助かった…
 そして思わず杉山くんの顔を見る。
 にこやかな爽やかな笑顔をしていた。


 その裏のない顔を見て、わたしは心からホッとしたのだ…






 
 
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