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シャイニーストッキング
第6章 黒いストッキングの女5     課長佐々木ゆかり
 41 黒歴史

「笠原主任、ちょっとトイレ…」 
 
 どうしよう、あのいやらしい目付きはそういう意味もあったのか、まさか吹聴するなんてことは…
 少し頭の中がパニック気味になっていた。
 思わぬ過去の負の遺産の出現にすっかり動揺をしていたのである。

 ああ、出来ることならあの頃の全てを消し去りたい…
 洗面台の鏡を見ながら心からそう思っていたのだ。

「課長大丈夫ですか…」
 会議室に戻ると主任が心配そうに訊いてきた。
 多分、主任は昨夜の代役による寝不足のせいだと思っているようなのだ。
 そしてタカシも心配そうな顔をしているのである。

 おい、お前のせいなのに…
 あんな昔の黒歴史を引っ張り出されてすっかり不調に陥ってしまったのだ。
 笠原主任が不調のわたしに代わってその後を進めてくれ、条件の概略を提示し、また一度持ち帰り再度明日の会議に臨むという話しになったのである。

「こちらとしてはこの条件で十分だとは思いますが…」
 とりあえず本人達に訊いてみる、という話しで終了したのだ。

「じゃあ佐々木課長また明日お願いします」
 と、外資系人材派遣会社営業マンの遠藤タカシはそう言って帰っていったのである。
 なんとなくその顔には悪意の類の様子は見受けられなかったが、わたしの負の遺産といえる黒歴史を知っている男なのである、心配であった。 

「課長大丈夫ですか、何か顔色悪いですよ…」
 それにセクハラ大丈夫ですか、と訊いてくれたのだ。
 主任も奴の、タカシのあのいやらしい目付きには気づいていたのだそうである。

「本当に大丈夫ですよ、それに…」
 あの程度のセクハラには慣れているから、と伝えた。

「さすがですね、美人課長は何かと大変ですものねぇ…」
「あ、笠原さん、それ、セクハラですよ」
 とりあえずそう2人で、笑い話しにして収めたのだ。

 しかし恐れていたわたしにとっての負の遺産といえる黒歴史が、とうとう姿を現してしまったのである。
 そしてあの人材派遣会社の遠藤タカシとはこの先も長く関わっていくのは必至といえるのだ、なるべく早めに彼の腹を探らなくちゃならない、と、わたしはそう思っていたのだ。

 ブー、ブー、ブー…

 すると携帯電話が着信した。

 知らない番号だ…
 だが、わたしにはなんとなくだが、誰の電話か分かる気がしていたのである。




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