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シャイニーストッキング
第6章 黒いストッキングの女5     課長佐々木ゆかり
45 黒歴史の生ける証人

 よし、いけるっ…
 わたしの強気作戦の出だしは成功である。

「だから…」
 精一杯の強気な目をしたつもりであった。

「あ、いや、イケイケの美人課長がいると噂で聞いて、会ってみたらあの『姫』で、そして昔と変わらない感じだったので…」
 どうやらわたしは、この業界では少し名前が売れてきているようで、しかもイケイケと噂されているそうである。

「それは嬉しいけども、あんな昔のことを今更言われても…」
 精一杯に目力を込めて彼を見る。

「い、いや、そんな、今さら…」
 今さら昔のことをとやかく言うつもりもないし、吹聴するつもりもない、と彼は言ってくる。

「お、俺も、なんとかこうしてここまでマジメにやってきたんで…」
 あのディスコの摘発の直前に偶然辞めていて助かり、そこから紆余曲折あったが、なんとかこうしてマジメにやってきたんで自分だって今さら昔の事など引っ張り出したくはない、と言ったのだ。
 わたしは彼の話しに黙って頷く。
 確か彼の名刺には係長と記されてあった。

「ただ本当に、昔憧れていたあの『姫』が、目の前に突然現れたので…」
 思わずこうして誘っただけである、と。

 彼の話しからは嘘や裏の悪意の類は感じられなかった、恐らく本当の話しであろうと思われたのだ。

「昨年結婚もして、冬には子供が…」
 彼の薬指にはリングが光っている。

 そうか、わたしの考え過ぎか…
 あまりにも突然に黒歴史の生ける証人が現れたので、被害妄想が過ぎてしまったようであった。
 彼は、元黒服の遠藤タカシは純粋に昔を懐かしんだのである。
 ようやく肩の力が抜けた。

「もう完全に…」
 彼もわたしの様子が変わったのを察したのであろう、そう訊いてきた。

「もちろんよ…」
 もちろん完全に絶ったし、今さら過去の誤ちは犯すつもりもない…そんな想いを目に込めて彼を見る。
 しかし、相変わらずに彼はわたしの脚を見つめていた。

「あの…」
 これからもこんな縁で申し訳ないが、仕事の付き合いをよろしくお願いしたい、と、彼は真摯に言ってきたのだ。

「それはこちらこそだわ…ただ…」
 絶対に昔の話しには触れないでほしいと付け足した。

「それはもちろん約束します…」
 そう言いながらも変わらずに脚を見つめてきている。

 全く男って奴は…
 





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