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シャイニーストッキング
第6章 黒いストッキングの女5     課長佐々木ゆかり
 46 伝線

 全く男って奴は…
 わたしは彼のあまりにも露骨なその視線にそう思っていた。

「あ、あのぉ…」
「えっ」
 まだ何かあるのか。

「伝線してますよ…」
 脚を指差して言ってきた。
 
「あっ」
 見ると太腿から膝下までストッキングに伝線の線が走っていたのである。
 
 それがさっきから見つめていた理由なのか…
 ストッキング脚に1本の伝線の線が走っていた。

 まるでわたしみたいだ…
 その伝線の線を見てそう思う。
 
 こんなほんの僅かな細い1本の伝線、つまりナイロン繊維の小さな綻びだけでストッキングとしての価値観はゼロに等しく陥ってしまうのだ。
 わたしの負の遺産である黒歴史も、もし、これからの業務上の関係各所の誰かにでも知られてしまったならば、いや、僅かな噂でも流れてしまったならばわたしの地位や立場、信用が一気に無くなってしまう恐れがあるのだ、と、この目の前の遠藤タカシによって痛感したのである。

 まるでこのストッキングの伝線のようだわ…
 そんな想いを考えながらストッキングの伝線を見つめていた。

「あのぉ…」
 思い詰めた様な感じで言ってくる。

「あのぉ、そ、そのストッキング捨てちゃうなら…」

 えっ…

「お、俺に、くれませんか…」
「えっ」
「ひ、姫のストッキング欲しいんです…」
 恥ずかしそうに彼は懇願する。

「えっ…」

 いた、ここにもいたのだ
 ストッキングフェチが
 ストッキングラバーがいたのだ…

「えっ、な、何を…」
 わたしは遠藤タカシの思わぬ発言に少し動揺をしてしまう。
 わたしのこの伝線したストッキングが欲しいというのだ。

「憧れていた姫のストッキングを宝物にしたいんです…」
 さっきまでのあのいやらしい目が真剣な目に変わっていた。

「宝物にって…」
「俺、ストッキングフェチなんです」
 それはとうに解っている。

「フェチにとっては憧れの人のストッキングは宝物になるんです…」
「え、ええ、でも、奥さんいるでしょ…」
「いや、憧れの人と妻は、また、別なんです」
 さっきから憧れていたと言われていて気持ち的には決して悪い気はしていないのだが、あまりにも突拍子な事なのでどう応えてよいのかわからないのである。

「で、でもぉ…」
「じゃあ、こうしませんか、俺の口止め料としてくれるって事で…」 
 



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