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シャイニーストッキング
第6章 黒いストッキングの女5     課長佐々木ゆかり
  51 オリオン ②

 オリオン…
 それは星座のオリオン座からきている健太のあだ名である。
 オリオン座の三つ星の形の黒子が健太にはあり、それが、あだ名の由来なのだ。

「ようやく辿り着いたって…」
 わたしは気になり尋ねた。

「ええー、その話し聞きたいんですかぁ」
 わたしは頷く。

「じゃあ、久しぶりにメシ行きましょうよ、メシしながら、話したいなぁ…」
 あっ、でも体調が悪いのか、と残念そうに言ってきた。

「ううん、ただの貧血だから、もう少し待っててくれるなら大丈夫だと思う…」
「いやぁ、『姫』とメシ行けるならいくらでも待ちますよぉ」
 爽やかに言ってくる。
 わたしにはこの健太も黒歴史の1人ではあるのだが、久しぶりの懐かしさに心も複雑に上ずっていたのである。

「ねぇ、お願いだからその『姫』って止めてくれないかなぁ…」
「えっ、あっ、すいませんです」
「わたしの黒歴史だから、イヤなの…」
 そう言うと、健太は少し黙った。

 そして
「黒歴史…ですかぁ…」
 と、真面目な顔でそう呟いたのだ。

 確かにわたしにとっては黒歴史に違いなく、そして黒歴史以外の何ものでもないのである。

「僕にはあの時代は、意外といい思い出なんだけどなぁ」
「えっ…」
「青春の甘くもあり、苦くもある、いい思い出なんだけどなぁ…」
 と、昔を懐かしむ様な遠くを見る目でそう言ったのだ。

 青春の思い出かぁ…
 だが、わたしには、今となっては、そんな甘いセンチメンタルな思い出としては存在できていないのである、第一にこの過去の大学時代の話し等、決して誰にも言いたくはないし、知られたくもなかったのだ。
 とても青春の思い出等の綺麗な言葉で言える内容ではないのである。

「『姫』もいい響きだと思うけどなぁ…」
 本当に昔と変わらない爽やかさだと、わたしは健太の顔を見てそう思っていた。
 それにまさか、健太が同じ会社であったとは全く知らなかったし、夢にも思わなかった。

 確か、わたしがオーストラリアに留学してからは会った事ないよなぁ、大学時代が最後だった筈だ…
 あの1番乱れていた大学時代を見ているのに、こうして未だに好意を持ってくれている事に少し不思議な想いが湧いていたのである。

 それなのに『姫』がいい響きだと言うのか、わたしには今更耳に入したくない言葉であるのだが…
 


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