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シャイニーストッキング
第6章 黒いストッキングの女5     課長佐々木ゆかり
 52 オリオン ③

『姫』、今更聞きたくない言葉である。
  そう思いながらゆっくりと上体を起こす。

「もう大丈夫、行こうか…」
 起き上がり、体調を確認した。
 そしてわたし達は恵比寿の駅前再開発で最近出来た商業施設内にあるビストロに入る。
 オーナーが知り合いなのだそうだ。
 一昨日の杉山くんとの焼鳥屋の事があったので、煙草の煙の充満している店は避けたかったから大歓迎であった。
 
「とりあえず乾杯…」
 わたしはシャンパンとオレンジジュースを割った『ミモザ』というカクテルを飲む。
 健太はビールである。 

「オリオン、あ、健太とこうするのは…」
「ええ…と、今28歳だから8年振りになりますね」
「8年かぁ…」
「オリオンでいいですよ」
「でもわたしは『姫』はイヤ…」
「そうなんですか、2人の時は『姫』でいいじゃないですか」
 わたしは黙って首を振る。

「はい、わかりました、もう言わないです」
 この口調を聴くと、いくら黒歴史とはいえあの大学時代が蘇り、懐かしい感じがしてくるのだ。

「そう、ようやく辿り着いたって、なに…」
「うーん、話し長いですよ…」
 わたしは黙って頷いた。

 健太は実は大学3年時に、わたしを追ってオーストラリアに留学したそうである。
 だが、オーストラリアに来て、わたしを探し、消息を知った時には既にわたしはニュージーランドに移動した後であったのだ。
 そうなのだ、わたしはオーストラリアに1年半、ニュージーランドに半年間居て、そして帰国したのであった。
 実はオーストラリアでもマリファナ系のドラッグ三昧の乱れた生活をしていたのだが、ついに仲間が摘発されてしまったのである。
 だが、本当にたまたま偶然、その摘発された時にいなかっただけであり、普通であったならその場に居た筈なのである。
 たまたま運が良かったとしかいいようがなかったのだ、そして、また、その仲間がわたしの事を一切口にせずにいてくれて助かったのだ。
 そしてわたしはその九死に一生を得た事について己を振り返り、過去を見つめ直し、ようやく目覚めたのであった。
 そして雲隠れの為とドラッグ系を完全に断つ事を心に近い、全てをやり直す意味も含めてニュージーランドに渡り、半年間牧場の仕事に就き、大自然の中でこれまでの人生を振り返り、そしてこれからの人生を見つめ直したのだ。
 


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