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シャイニーストッキング
第6章 黒いストッキングの女5     課長佐々木ゆかり
 87 ただ…

 健太はまるでまだ、さっきの射精の絶頂感の余韻に浸っているかの様な惚けた顔をしていたのだ。

「健太は泊まっていくのかしら、わたしは髪を乾かしたら帰るわよ」
「えっ、か、帰るんですか…」
「当たり前じゃん、何で健太と泊まるのよっ、それに明日も朝から会議だし…」
 わたしは強気に、そして敢えてわざとオリオンではなく、健太、と語気を高めて名を連呼したのだ。
 その呼称を変えた意味も健太はわかる筈であろう。

「だって…まだ…」
「ええっ、何よっ、まだ何なのよっ…」
「いや、あの…まだしてないっていうか…」
 健太はまだ挿入れてないと言いたいのであろう、だが、わたしの強気な語気に気勢を殺がれてしまったようで、いつもの軽い言葉の勢いがたどたどしくなっていたのである。

 わたしは完全に健太を呑み込んだのだ…
 これであの8年前と同じ様にこれからまた上から健太を見下ろせる。
 
「まだしてないって……もう十分でしょう」
「え、あ、いや…」
「何よ、気持ちよかったんでしょう、それに泣きながらあんなに沢山わたしの口の中に出したくせに…」
「あ、はい、そ、それは…」
 あんなに感じたのは初めてに近いくらいでした…
 と健太は言ってきた。

「じゃあそれでいいじゃん、すごく気持ちよさそうだったわよ」
「あ、は、はい…」
「それにわたしも気持ちよかったから…」
「は、はい…」
 健太は面白いようにわたしの言葉に意気消沈していくのだ。
 このわたしの強気な語気にすっかり呑まれてしまっていたようである。
 これでわたしと健太の立場の位置は確定したのだ。

「久しぶりにかわいかったわ…」
 それに懐かしかった…とも言った。

「は、はい、それは、僕も…です」
 再び健太のわたしを見る目には、憧憬の色が映っている。

「ただ…」
「え、ただって…」

「ただそれだけよっ…」
 わたしはそう言い放ったのだ。
 ここで一度突き放しておかなくてはまた今後にも影響してしまうはずなのである。

「健太、わたしには、ただ懐かしかっただけなんだからね…」
「あっ、は、はい…」
 完全に健太は墜ちたのだ。
 このわたしの言葉に、おそらく僅かに抱いていただろう淡い期待を完全に打ち壊されてしまった筈なのである。

 そしてわたしは化粧台に座り、ドライヤーをかけていく…
 





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